[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
エアルが目に見えるほど濃い…
紅葉に彩られた森。
まずは異常の現場を見ておこう…と足を踏み入れたものの、あまりのエアルの濃さにレイヴンは眉をひそめた。
同時に、どくりと左胸が不意に鼓動を刻み、無意識に左胸を抑える。
あまりこの場に長くいるのは避けた方がよさそうだ。
幸い、魔物にも出くわしてはいないが、ここで戦ってしまうと過剰なエアルを魔導器がとりこんでしまい、魔導器にも悪影響を及ぼしてしまいかねない。
早めにここを去るのが得策…と来た道をもどり始めた。
ほどなくして紅葉ははるか後方へと去り、元の緑がもどってくる。
「このへんはまだ問題はなさそうなんだけどねぇ……」
徐々に範囲を広げているという紅葉は、いつかはこの周囲にも及ぶだろう。
まだ遠い…などと楽観視はできない。
もっとも、レイヴンにとっての心配はこの街のことよりも……
さっさと原因突き止めてドンに報告しないと、どんな目にあわされるか…ということのほうが大きかったりもする。
森の中を魔物に見つからないよう気配を殺して歩く。
そうしていると、人の気配を感じ、さっと木陰に身を隠した。
そっと覗き見ると、そこにあるのは見しった顔。
…フェドロック隊長と…街で見た女の子ね。
紙切れを持って、何やら探している様子。
これを逃す手はない。
レイヴンは彼らの後をそっとつけた。
たどりついたのはお世辞にも奇麗とは言えないあばら家。
屋根は苔で覆われており、到底まともな人間が住んでいるとは思えない。
そこへ足を踏み入れていく二人を見送りながら、彼らの目的を推測する。
魔物の凶暴化、エアルの異常に関することであるのは確かだろうが、内容まではさすがに予想できない。
せめて、あの家の住人が誰かだけでもわかればいいのだが……
レイヴンがそっと近づこうと足を踏み出した……その時。
バァン
突然に消し飛んだ家の扉。
自分を通り過ぎていく爆風と熱に思わず体を震わせる。
目を細めて問題の家を見ると、奇麗に半円形にくり抜かれた壁が見えた。
どうやら、とっさに魔術の壁を作り、二人は身を守ったようだ。
……いきなり攻撃魔術でお出迎えって…どんな人間よ
うかつに近づいてなくてよかった、と胸をなでおろす。
でなければ、いまごろあの爆発に巻き込まれてあるまじき醜態を晒していたことだろう。
そんな間抜けな理由で見つかる…なんてことは御免こうむりたい。
突拍子もない出来事であったが、吹き飛んだ壁のおかげで話を盗み聞くのは容易になった。
レイヴンは今度こそ…と慎重に家屋へ近づいた。
「あぁ、あの遺跡なら前に調査したわ」
……子供?
近づけば、聞こえてきたのは少女の声。
見ればまだ10代の少女。
しかし、話す内容はどの魔導師よりも専門的だ。
「あの遺跡の魔導器には魔核はなかったわ。でも、川に沿って紅葉が広がってるっているんなら、あの遺跡が関係してるって可能性は高いわね」
「ということは?」
「誰かが魔導器動かして暴走させてる可能性が高いんじゃない?」
少女は眠くてたまらないと言った口調で話す。
「魔導器が動いていたとして、どうやったら止められる?」
「んー…種類が分からないと何とも…あ、そうだ。あのこなら……」
ごぞごそと少女は乱雑とした室内を漁る。
他人にはただ散らかっているようにしか見えない部屋も、住む本人にはどこに何を置いているかしっかり分かっているらしい。
少女がとりだしたのは小型の魔導器。
「エアル採取用の魔導器よ。これでエアルの流れをうまく絶つことができたら、魔導器を止められるかもしれないわ。ただ、このこも魔導器だから……」
「濃いエアルの中では暴走するかもしれない……か?」
「そゆこと。だから、これもあげるわ」
少女はぱちぱちとタイプライターのようなものを打ち込む。
すると、術式がするすると打ち出された。
なにやら透明な用紙に印字されたそれは少女の手の中で不思議な色合いを放つ。
「魔導器に流れ込むエアルを調整する術式よ。しばらくの間ならこれで魔導器がエアル過多になるのを防ぐことができるわ」
「・・・助かった」
すっとナイレンが少女にネックレスのようなものを差し出す。
少女はそれをひったくるように奪うと、幸せそうに微笑んで頬ずりをした。
どうやら、あれが今回の報酬らしい。
用事はすんだ、と立ち上がるナイレンをみて、レイヴンはそっと壁から離れる。
話が終われば、レイヴンにとってここにいるメリットは何もない。
見つからぬうちに、と早々にその場を離れた。
「…抜かりない奴だな。まったく、何が楽しくてただの駒でいるんだか…」
ぽつりとつぶやくナイレン。
何を言ったかわからず、不思議そうに自分を見上げるシャスティルに何でもないと声をかけ、歩みを再開する。
リタの魔術が炸裂した時、レイヴンが消しきれなかった気配。
それを感じ取ったナイレンは、レイヴンが話を盗み聞きしていたことを知っていた。
そして、彼がもう一つの顔を持っていることも。
しかし、今はレイヴンの動きよりも街に迫る紅葉のほうが脅威だ。
ナイレンは帝都にいる悪友を思い浮かべ、ため息をつく。
あまり待てねぇから、さっさと来いよ
頬を凪ぐ嫌な風はその濃さを増していくようだった。