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ナイレン・フェドロック
ユーリ・ローウェルとつながりのある男。
どうやら、ユーリとは歳は違うものの、同期であるらしい。
かつてナイレンはアレクセイの親衛隊に所属していた。
しかし、自分が任務に就いている間に妻子と死別。
以来、親衛隊からは離れ、別の隊に籍を置いたようだ。
親衛隊からは離れたが、その才は際立つものがあり、隊長に推挙されたものの、妻子を亡くした経緯から、すべてを騎士団上層部の命に従うことを良しとはせず……
現在はシゾンタニアに左遷という憂き目にあっている。
彼が妻子を亡くした経緯まで詳しく知ることはできなかったが、どうやら、何かの爆発に巻き込まれた…とのことだ。
シュヴァーンは彼と会った時のことを、淡々とアレクセイに報告した。
別段、重要な情報でないようにおもうが、それは情報を聞いた主人が判断すること。
自分はただ見聞きしたことを伝えればよいだけ。
しかし、胸にあるこの不快な思いは何だろうか。
アレクセイの手足として動くたび、それは徐々に大きくなっている気がする。
胸にある戸惑いを気取られぬように、シュヴァーンはまっすぐにアレクセイに対峙した。
「フン、フェドロックか。ローウェルといい、フェドロックといい…面倒な」
「………」
シュヴァーンはただ黙ってアレクセイの言葉を待つ。
「まぁいい。フェドロックには別の奴を回す。お前は引き続き、ローウェルとギルドの監視だ」
「了解しました」
シュヴァーンの従順な様子が気に入ったか、アレクセイは満足げに頷く。
「そう、それでいい。お前は私の言うとおりにしていろ」
「……はっ」
頭を下げ、彼の望み通りに従順の意を示す。
心臓が痛んだ。
それから数年の月日が流れた。
シュヴァーンは騎士団とギルドと双方を行き来したが、どちらも目立った行動はなかった。
ユーリは騎士団長の命にすべて従うわけではないもの、任務はこなすし、目立って何かを企んでいる様子もない。
ギルドはギルドで、小競り合いは絶えないものの不穏な動きはみられない。
アレクセイの過剰な警戒は杞憂なのではないか。そう思うまでに静かだった。
「おい、レイヴン」
「なーによ、また面倒事押し付けようってんじゃないでしょーね」
ギルドの首領であり、ユニオンのまとめ役でもあるドン・ホワイトホースに呼ばれ、レイヴンは半眼で睨む。
ドンに呼ばれるということはレイヴンにとって、ろくなことにならない。
それがこのギルドに所属するようになって、彼が一番に学んだことだった。
今日も彼の予想通り、面倒ごとであるらしい。
嫌そうに顔をゆがめるレイヴンに構わず、ドンはニヤリと笑う。
「察しがいいじゃねぇか。おまえ、ちょっとシゾンタニアまで入ってこい」
「シゾンタニア―?」
シゾンタニア
それはダングレストの東にある街。
あの時出会った、ナイレン・フェドロックが駐屯している街でもある。
帝国から離れていることもあって、騎士団はその場所に戦力を割けていない。
本当ならば、ギルドへのけん制目的で防衛の要所としておきたいところではあるが、実質そうはいかず…
幸福の市場が拠点としているトリム港の対岸のノール港がその役目を果たしている。
ゆえにシゾンタニアは帝国にとっては捨石のような街である。
そこへわざわざ行けというのは……?
「あそこは最近きなくせぇンだ。魔物が凶暴になってきやがってる。このままじゃ、いつこっちが襲われるかしれねぇ。てめぇはその原因を探ってきやがれ」
「またそんな曖昧なもんを調べてこいとか……」
「あぁ?文句あんのか?なら……」
「ありません!では、行って参ります!」
これ以上難題をふやされては御免、とばかりにレイヴンは慌てて逃げ出す。
ユニオン本部から走り出て、ようやく一息つくと、ドンから言われたことを思い返した。
魔物が凶暴化…ねぇ
こちらにはそんな報告はまだ上がってきていない。
となれば、それが起こっているのはシゾンタニアのごく周辺に限られているのだろう。
……今のところは。
ぼんやりと考えていると、以前アレクセイが言ったことが思い返された。
「フェドロックへは別の奴を回す」
誰を派遣したかはしれないが、その派遣した誰かはまだシゾンタニアにいるだろう。
ならば、魔物の凶暴化がおこっていれば、アレクセイはその者を通して、その情報を知っているということになる。
だが、そんな情報はまだ帝国内のどこにも出回ってはいない。
なんか、やーな感じがするわ
レイヴンは嫌な胸騒ぎを感じつつ、シゾンタニアへ向かった。