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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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花火が上がる。
それは誰をも魅了する華ではなく、皆に知らしめるための音。
街には装飾が施され、歩く人々も足取り軽く歩いている。
新しく就任した皇帝陛下への祝い。

「ヨーデル皇帝陛下!」
「陛下!」

城のバルコニーより顔を姿を見せたヨーデルに、市民は歓声をあげる。
豪奢な服に身を包み、冠を頭に載せたヨーデルは柔らかな笑みで手を振る。
その背後にはアレクセイ、シュヴァーンが控えていた。
フレンは階下にて警護を行っている。

「陛下。そろそろ…」
「はい」

アレクセイに促されたヨーデルが城の中へと姿を消す。
それでも鳴りやまぬ歓声にシュヴァーンは笑みを刻んだ。






謁見の間。
そこには、ヨーデルにアレクセイと彼が信を置く評議会議長の姿があった。
皇帝がそばに置くには少なすぎる人数。

「フレン・シーフォ隊長を連れて参りました」
「入れ」

何もわからぬままシュヴァーンに連れてこられたフレンは、中にいる面々をみて、行きをのむ。
その緊張を悟ったのか、ヨーデルは柔らかく声をかける。

「大丈夫ですよ、フレン。こちらへ」
「はっ」

ヨーデルと、そしてシュヴァーンに促されて、フレンは前へ進み出る。
そして、幾分ヨーデルから離れたところで膝をついた。

「フレン、隊長就任おめでとうございます」
「ありがとうございます。陛下直々にお言葉を賜り、身に余る光栄でございます」
「これは、僕からの就任祝いです。でお、本当はいけないことですから…他言無用ですよ?」

ヨーデルは悪戯っぽくほほ笑むと、後ろを指し示した。
その先を視線で追う。
そこには、黒い人影があった。

不審者かと思い一瞬身構えるが、アレクセイやシュヴァーンが何の構えも取っていないのをみて、警戒を緩める。
いつ入ってきたのかは全く分からなかったが、彼は招かれたものであるらしい。

その人物がまとうのは黒。
紫や金の細帯が黒に映えて、美しい色合いを呈していた。
しかし、その人物が何者であるのかをうかがい知ることはできない。
頭には薄衣がかぶせられ、かすかにのぞく顔は狐の面で隠されていた。

誰も言葉を発っしない。
静寂の空間。

その人物は静かに歩みだした。
しなやかな足さばき。
余計な音は一切たてず、静かに歩み出る。
そして、フレンよりも離れた位置でその歩みは止まった。

皆が注目する中、すらりと腰に下げられていた刃が抜かれる。
細身の片刃の剣はきらりと光りを反射した。
皇帝の御前で刀を抜くなどあってはならない行為。
だがそれをとがめるよりも早く、刃が舞った。

黒の衣が空気をはらみ、ふわりと広がる。
手を彩る細い腕輪がしゃらりと音を立てる。
飛ぶように軽い足運び。
それを見て、ようやく彼が剣舞を舞っているのだと気づく。
楽も何もない空間。
聞こえるのは彼が奏でる軽やかな足音と衣擦れの音だけであるのに、気付けば彼の舞いに引き込まれていた。


ふわりと宙に舞った体がとん、と音を立てて床に降り立つ。
そこではっと我に返った。
どれほど時間がたったのだろう…それすらも分からない。
呆けた頭を元に戻そうと一旦瞳を閉じる。

そして再び目を開けた時、刀の切っ先が自分に向けられていた。
正確には、自分の背後にいるヨーデル殿下に。
驚きに目を見開くと、すっと剣先はそれ、騎士団長に、評議会議長に、騎士団隊長主席に、そして、最後は彼自身の首筋に。
そうして、刀は収められた。

誰も何も語らない。
自分以外の誰もが真実を知っている様子であるが、今それを問うことはできなかった。

黒い衣をまとった人物は、目の前のフレンには目もくれず、懐から何かを取り出した。
真っ白な紙に包まれたそれを、投げると、ひらりとそれが床に舞った。
床に落ちたそれは、赤く染まった羽根。
近くにいたフレンには、それが何であるか分かった。

血だ。

真っ白であったであろう羽根は、何かの血で赤黒く染まっていた。

「確認しました」

ヨーデルが頷く。
それをみて、彼は身をひるがえした。
もう用は済んだとばかりに後ろを振り返ることなく部屋を出ていく。

彼の背が離れていくのを見送っていると、背後でヨーデルが話し始めた。

「昔、始祖の隷長と呼ばれる種属と人間との間で戦争がありました。人は魔導器を用いて彼らと戦おうと奮闘しましたが、魔導器は最悪の災厄を呼びこんでしまいました。星すらをも飲み込もうとする災厄…星喰みを打ち倒すべく、始祖の隷長と人とは力を合わせ、戦いました。そして、星喰みを退けた。」

おとぎ話のような話。
ヨーデルが反応を求めているわけではないとわかったため、フレンは何も言わずにその話に耳を傾けた。

「星喰みを退けはしたものの、元凶となった魔導器をそのままにはしておけない。当時の人の指導者はそれを管理するために国を作った。そして、始祖の隷長は魔導器を管理する人を監視するために、代理人を見出した。それが暗行御史。彼は始祖の隷長の後見を受け、道を外れた人を処断する。けれど、その役目ゆえに誰かに知られてはならない。これはこの帝国の創立時よりきめられた闇の部分。本来ならば、帝国を担う者のみに知らされる事実。……僕がこれを話した意味、フレンになら分かりますね」

ヨーデルが話し終えた瞬間、フレンは弾かれたように走り出した。
もう見えなくなってしまった黒い影を必死に追っていく。

「これでよかったのですか?」
「ええ。彼らならうまくいくでしょう。暗行御史は帝国の影。ですが、孤独である必要はないのですから」

ヨーデルは笑う。
アレクセイは一つため息をつくと、若い彼らが消えた方向を眺めた。








「待ってくれ!!」

息を切らせながら走ってきた人物に構わず、歩いていこうとする影。
フレンはその手をつかみ、無理やりに引きとめた。

「………」

彼は何も答えない。
それが正体を隠すためだとは分かっていた。
だからこそ、あえて問いただしはしない。
自分の気持ちを伝えるだけ。

「たとえ歩む道が違っても、背負うものが違っても…正しいものが正しく生きることができる世界を作る」
「……っ……」

彼が息をのむ気配が伝わる。

「それだけは、変わらないよ」

まっすぐに彼を見つめる。
顔には笑み。
迷いなんて一つも見えない、曇りない笑顔。

彼は何も言わなかったけれど、まっすぐに拳が差し出された。
誘われるように拳を差し出すと、それがぶつけられる。
昔からよくした、二人の間の合図。
それだけで十分だった。

フレンは離れていく彼を引きとめることはせず、見送る。
胸に温かいものを抱えて…。











「よくもまぁ、いろいろとやってくれたな」

アレクセイが自身の執務室に戻ると、唐突に声が投げかけられた。
それに驚きもせず、答える。

「主人の留守中に入り込むとは感心しないな。それに、シーフォのことは陛下がしたことだ。私に言わないでくれたまえ」
「そっちじゃねぇよ」
「では、なんのことかな?」
「とぼけんなよ、タヌキ」

ばさり、と音をたてて何かが投げつけられる。
床に散らばったそれらに目を落とすと、投げつけられたのが数通の手紙であることが分かった。
封筒に刻まれていたのはキュモールの紋。
宛名は……

「影の取引に正式な紋を使うなど、愚かしいにも程があるな」
「弁解はしねぇのな」

さすがに封筒に宛名は書かれていなかったが、中身を見ればわかる。
この手紙は海凶の爪にキュモールからあてられたものであった。
それだけなら、ユーリがわざわざアレクセイのもとを訪れた理由にはならないが…

「自分の部下使って魔導器横流しして、それ使って悪だくみしたところを刈り取る。帝国の中の腐った部分をあぶりだして一斉に切り捨てるのに都合が良かったってか?」

海凶の爪のイエガーはアレクセイの部下であった。
今はギルドとして独立しているため、元…をつけたほうがいいのかもわからないが、現実、今現在もアレクセイの命令を遂行しているところをみると、現在遂行形なのだろう。
ユーリの厳しい視線を受けても、アレクセイはひるむ様子はない。
むしろ、満足げに笑った。

「ついでに、帝位継承のごたごたも片付いた。いいことばかりだろう?」

悪びれた様子のないアレクセイに、ユーリは剣を向ける。

「この剣に例外はない。知ってるだろ?」

剣舞の最後に見せた仕草。
あれは、皇帝であれ誰であれ、道にそむけば剣を向ける。自分すらも例外ではない…という意味の誓い。
だが、今回は……

「……ま、あんたはまだこっちに踏み込んでない。ぎりぎりな」
「ふっ……そちらに踏み込まないよう注意するとしよう」
「よく言うぜ。ぎりぎりなの分かってやってるくせに」

嫌そうに顔をゆがめながら剣を引く。
アレクセイは相変わらずの余裕の表情を崩さぬまま。
その顔を見て、眉間のしわを濃くしながらもユーリは窓枠に足をかける。

「あんた、当分顔見せんな」
「随分ないいようだな。…まぁ、君の機嫌を損ねるのは私の望むところではない」
「とかいって、おっさん送りつけてくんなよ。うるせぇから」
「ひどっ!!」

いつからいたのか…おそらく最初からだろうが、うるさいから来るなと言われたシュヴァーンはわざとらしくさめざめと泣いたふりをしている。
それをみることすらせず、ユーリはひらりと身を躍らせた。
黒の衣はすぐに闇に溶けて見えなくなる。

それを見送って、アレクセイは物思いにふける。
ひとまずは平和を手に入れた国を安定させるために、これから忙しくなるだろう。
また彼の手が必要な時が来るかもしれないが、今はひと時の安寧を。







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