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「はっ……貴様の勝ち、だ。憎らしい奴め。いつも私の邪魔をする」
「ははっ。そりゃこの上ない褒め言葉だな」
仰向けに倒れたアレクセイに、ユーリは刀を向ける。
それを眺めながら、アレクセイは自嘲気味に笑う。
「ここで終わりか。長年の計画も崩れればあっけないものだ」
「妙に諦めが早いな」
「…時が来たということだ。……どうした?けじめをつけるのだろう?」
さっさとやれ、とせかす男に、ユーリは深々とため息をつく。
「そんなつもりのけじめじゃねぇよ。……だから安心しろ、シュヴァーン」
「……なに?」
アレクセイの目がさまよい、やがて自分の姿を認めて、その目が大きく見開かれる。
どうやら、本当に自分の存在には気づいていなかったようだ。
知らず知らずのうちに詰めていた息をゆっくり吐く。すると、自分の左手にいやに力がこもっていることに気づく。
意識して見れば、無意識のうちに剣を握りしめていたことが分かった。
抜こうとしていたのか。剣を。…なぜ。
戸惑いながらも剣から手を放す。
みれば、ユーリがにやりと笑っているのが見えた。
「オレはあんたを殺すつもりはないぜ。死にてえんなら、てめえでやってくれ」
「ならば何のためにこんなことをした」
わけがわからないと顔をしかめるアレクセイ。
ユーリはと言えば、戸惑うアレクセイを面白そうに眺めている。
同じく事情を知っていそうなナイレンを眺めれば、肩を竦められた。
ナイレンから事情を話す気はないようで、ユーリの言葉を待つしかないようだ。
ユーリは体を起こしたアレクセイの隣に座ると、ようやく口を開いた。
「オレはあんたの計画には賛同できねえ」
「…だろうな」
「けど、今の帝国を変えるってことは反対しねえ。別に、あんたが上に立つって言うんなら反対もしなかったさ。…あんたの計画があれじゃなけりゃな」
ユーリの言葉はアレクセイにとってはかなり意外であったようで、無言で彼を見つめている。
ユーリは一つ息をつくと、真剣な顔でアレクセイを見た。
「あんたは気づいてないかもしれねぇけどな、あんたの計画には致命的な欠陥がある」
「何?」
「あんたの計画の要…ザウデ不落宮。あれはあんたの思っているような兵器じゃねぇよ」
「…なんだと?」
アレクセイの目が剣呑としたものへ変わる。
「あんたはどうせ信じねぇだろうからな。実際に見てこいよ。…デューク。頼む」
ユーリが声をかけると、どこからか一人の男が現れた。
手には宙の戎典を持っている。
シュヴァーンはその男を知っていた。
人魔戦争の英雄、デューク。
だが、その存在は歴史から抹消され、彼自身の行方も分からないままであった。
その彼もまた、ユーリとつながりがあったとは。
信じられない思いで見ている中、デュークは滑るような足取りでユーリの横に並ぶ。
「こいつと一緒にザウデに行ってこいよ。ま、分かってると思うが変な気は起こすなよ。こいつは人間嫌いだからな。あんたが変なまねをしたら今度こそ息の根止められるぜ」
「……もとより負けた身だ。無様なまねはしないさ」
「だとさ。頼めるか、デューク」
「……良いのか?」
「頼む」
ユーリの迷いない様子を見て、デュークはわずかに頷く。
そして高々と宙の戎典を掲げた。
御剣の階梯より眩い光が放たれる。
光は巨大な橋となって空を走り、やがて海へと突き刺さった。
その瞬間。大地を揺るがす震動が世界各地へと伝わった。
遠く離れたこの場所からですら、その巨大な魔導器を見ることができた。
「あれが…ザウデ……」
驚愕の面持ちでそれを見やる。
アレクセイはあれを巨大な兵器だと言っていたが、本当にそうなのだろうか。
指輪のように円いフォルムで巨大な魔核を掲げるその姿は、他者を攻撃するよりも、なにやら祈りのようなものを感じる。
痛む体を引きずるようにして立ち上がったアレクセイは、複雑な表情でそれを見ている。
長年この手に…と望んでいたザウデだ。思うところは多いのであろう。
「見てこいよ……この世界の真実を…な」
ユーリの呟きが聞こえる。
それにどこか暗いものを感じて彼の方を振り返るが、彼はこちらに背を向けていて、その表情はうかがえない。
「デューク。大体は俺の部屋にいるだろうからな、終わったら帰ってきてくれ」
ナイレンがそのように促せば、デュークが小さく頷く。
やがて、デュークとアレクセイ、それにシュヴァーンを乗せた船が、帝都からザウデに向かい出航した。