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ユーリ・ローウェルの代わりとして騎士団の隊長になったのは、貴族出身のキュモールと言う男だった。
初めは、アレクセイはなぜこんな才能もない男を採用したのかと疑問におもったが、やがてそれを自然と理解した。
キュモールは、ほとんど平民で構成されていたユーリの隊を問答無用で解散させると、自分の采配で隊を編成した。
所属するものは皆貴族の子弟。
プライドだけは高い、実戦経験のない隊。
役に立ちはしないが、貴族とその他と言う線引きができていた。
これこそがアレクセイの狙いであったのだろう。
彼は騎士団の膿を集めるために、キュモールを隊長としたのだ。
不要となれば隊ごとすぐに処分できるように。
頭が切れるのも、カリスマ性をもつのもかつてのアレクセイと変わらない。
だが、唯一変わったのはこの残虐性であった。
目的のためならば何を切り捨てても構わないという姿勢。
それが、シュヴァーンには眩しくもあり、恐ろしくもあった。
それほどにも心血を注げることがあるのは幸せなことであるから。
「よぉ」
廊下で声をかけられ、振り向く。
その人物を見た瞬間、頭を下げた。
「お久しぶりです、フェドロック隊長」
「よせ。今はお前の方が立場が上だろうが。なぁ、隊長主席殿」
異例の出世として、隊長主席に就任してからあちこちで囁かれた陰口。
正直うんざりしていたが、この男の言葉からは自分に対する負の感情だとかは感じられない。
単純に事実を言ったという感じだ。…面白がってはいるようだが。
「何かあったのですか?」
「あ?ちょっと野暮用だ」
あの事件後、被害にあっていたシゾンタニアも元の平穏を取り戻し、徐々に人も戻ってきているという。
親衛隊の人間が魔導器を動かした犯人の手掛かりを得るためと称して宙の戎典を捜索したが、宙の戎典はおろか、ユーリの遺体も見つからなかった。
その報告を聞いてから、アレクセイは宙の戎典の捜索を断念し、自らそれを作り出すことに力を入れ始めている。
あれだけ手に入れたがっていたのに、なぜあっさりと手をひいたのか。
それに、目の前のナイレンに対してもシュヴァーンは疑問を感じていた。
「………どうしてあなたは、あの人を探していないのですか?」
まさか、自分がそれを口にするとはおもわなかったのだろう。ナイレンの目が大きく見開かれる。
だがそれも一瞬のことで、次の瞬間にはいつもの飄々としたいつもの表情に戻っていた。
「ま、必要ねぇからな」
「それは、どういう……」
ナイレンは笑う。
「ま、今に分かる」
今に分かる…それは、近いうちに何かがおこるということだろうか。
ナイレンが何かを知っているのは確か。おそらく、アレクセイにとっては邪魔なことだろう。
だが、不思議とこのことをアレクセイに報告する気にはなれなかった。
もしかしたら、自分もその何かを無意識に望んでいたのかもしれない。