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ユーリとソディアが走り去った後。
その場は落ち着きはしたものの、剣呑な雰囲気はぬぐい去れないままであった。
戦士の殿堂の首領が始祖の隷長であるのは事実。
そして、魔狩りの剣のメンバーが始祖の隷長を忌み嫌っているのも事実。
このまま引くことも、再び戦うこともできず、両者はにらみ合っていた。
「この、大馬鹿どもらが!!」
野太い声が空気を大きく震わす。
魔狩りの剣メンバーが身をすくめるのとは反対に、ベリウスは笑みを浮かべた。
大声で怒鳴りつけた人物は、その体つきからは想像できないくらい身軽に客席から飛び降りた。
その人物をみて、フレンの後ろにいたカロルは思わず声を上げる。
「ドン!」
「おいてめえら、誰の許可得てこんなことしてやがる!ギルド同士の抗争はご法度だ!てめぇらの軽い頭はんなことも忘れたか!?」
ギルドの束ね役であるドン・ホワイトホースに怒鳴りつけられ、下っ端の者らは返す言葉を持たず、ただ縮こまるばかり。
ベリウスはついに耐えきれない、とばかりに笑い声を洩らした。
「久しいな。息災そうでなにより」
「なんだ、じじいになったとでも言いたいか?」
「そんなことは言っておらぬではないか。あの時はまだまだ半端者であったのに、貫禄が出たなと思うただけよ」
「てめぇと一緒にするな」
まるで昔からの知己のように話す二人。
しかも、ベリウスのほうがドンを子供のように扱っている。
そのことに周りは目を丸くした。
周囲の様子に気がついたのか、ドンは舌打ちをするとクリントに向き直った。
「おい、今回の発端はてめぇか」
「………」
クリントは否定も肯定もせず、無言でドンを見返した。
「ベリウスのくだらねぇ情報、いったいどっから仕入れやがった」
「……依頼だ」
「依頼か。ギルドの依頼だ、依頼主を明かせとはいわねぇ。だが、同じギルドに喧嘩売るような真似したのはなぜだ。ベリウスが始祖の隷長だってのを知って、歯止めがきかなくなったか」
「………」
クリントは返答を返さない。
ドンはなさけねぇ、とつぶやき深々と息を吐いた。
クリントを筆頭とした魔狩りの剣の連中がこんなことをした背景には、他人には言えない理由があるだろう。
だが、それは罪を許される免罪符にはならない。
「いいか。この街の人間にとってはな、てめぇらは魔物と同じだ。てめぇらは復讐心に目がくらんで、自分がされたことをそのまんま返してるだけだ。わかってんのか!」
「もうよい。この者たちとて分かっているだろう」
怒鳴りつけるドンをベリウスがやんわりと止めた。
「ヒトは間違えるものよ。あの時もそうじゃった。だが、間違いを正せるのもまたヒト。お主とて、多くを失っただろう?ドン・ホワイトホース」
母が息子をたしなめるように言われ、ドンは深々とため息をついた。
もう、怒鳴りつける気は失せている。
気を殺がれたのは魔狩りの剣の連中も同じであったようだ。
クリントはおもむろに立ち上がると、武器を持って外へと出ていく。
「償いはする」
振り向くことなくそれだけ告げ、彼らは闘技場を後にした。
その後、闘技場から逃げだした魔物を討伐し、市街の復興を行う戦士の殿堂と魔狩りの剣の人間らの姿がノードポリカでみられたという。