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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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遺跡までの道のりは、木々がかれていたり川が毒々しい色合いを放っていたりと見た目だけは危ないことこの上なかったが、結局何も起きず。
二人と一匹は妨害を受けることなく遺跡に辿り着ける…はずだった。
だが、湖までやってきた途端、状況は一変した。

「なによ、これー!!」

レイヴンが思わず叫ぶのも無理はない。
水をまとった巨大なへびというか、うねうねとした触手というか…な物体が体をくねらせながら次々と襲いかかってきたのだ。
全速力で遺跡へと続く道をかけるが、先にナイレンらが通った時にもこいつらは襲ってきたのだろう。
道が途中で崩れてしまっている。

「さすがに跳べ…ねぇか」
「どうすんのよー!!」

レイヴンの叫び声に誘われるようにして、方向を変えた魔物が二人のほうへその体躯をぶつけるようにとっしんしてきた。

のみ込まれる…!

そう思った瞬間、ユーリはもっていた武器を構えた。
迷いなく横へ一閃。

水のようなあれが切れるのか…そう思ったが、どうやら杞憂だったようだ。
魔物は斬られたところからたちまち凍り、力を失ったように倒れた。

「ほら、急いで行かねえとせっかくの橋がくずれるぜ」

見ると凍って倒れた魔物の体が橋がわりとなって、崩れた個所を補っていた。
みている間にも、氷は今にも崩れそうで…
レイヴンは先に駆けて行ったユーリを慌てて追った。



「……もう、死ぬかと思った」

ようやく遺跡の中へ到着し、ぐったりとしゃがみこむ。
どうやらあの妙な魔物もこの中にまでは追ってこないようだ。

「ローウェル隊長!?」
「よう」

声の方を見やると、フェドロック隊の女房役であるユルギスが二人に気づいて駆けてくるところだった。

「どうやってここへ…」
「こいつとそこのに案内されてだ」
「……いえ、そういうことではなく……」
「ワン」

帝都から一人でここまで来たのかとか、外の魔物はとか、式典はとかいろいろと聞きたいことはあったのに、それはラピードの一声でかき消された。
どうしてラピードまでここに…と驚くユルギスをよそに、ラピードはユーリの懐から飛び出ると、あたりを見回しながらちょこちょこと歩いていく。
あたりに敵の気配もないためそれを好きにさせつつ、ユーリはユルギスに問いかけた。

「ナイレンは?」
「おそらく、あのエアルの流れを追って中に…」

示された方を見ると、確かに赤い異常色のエアルが通路から流れてきているのが目に入った。
そして、どこか遠くから聞こえる何かが崩れる音。

「なんか、苦戦中か?」
「詳しいことは分かりませんが…私はここを離れられませんので」

ユルギスは何かを耐えるように固く拳を握りしめた。
後衛の援護部隊として配置された故に、危険を感知すれば退路を確保するために残らなければならない。
そして、先行している部隊が戻らなかったときは、この小人数では彼らを救出に行くよりも彼らを見捨てて帰還して、それを報告しなければならない。
異常を感じ取っても後を追っていけないもどかしさ、悔しさ。
それがどんなものかユーリにも分かる。
ユーリはユルギスの肩をぽん、と叩くとエアルの流れをたどって道を進み始める。
先に進むユーリに、ユルギスはただ頭を下げるしかなかった。




「あんたはついてこなくてもいいぜ。無事に帰れる保証はねえしな」

ユルギスとともに残ると思いきや自分についてきたラピードを懐に入れてやりつつ、同じく自分についてきたレイヴンにそう声をかけた。

「そういうことは早く言ってよね。ドンからの使いって名目上、こっちはそちらさんについていくしかないんだから」
「はっはっ、そりゃすまねえな」

たいしてすまないとも思ってない声音にレイヴンはため息をつく。

「どうする?今からでも帰っていいぜ」
「……ドンに息子とか言われてる人間をほおって帰れないでしょ。ついていくわよ、もう」

下っ端はつらいわ―とぼやいて見せつつ、ユーリの後についてゆく。
全くのウソとは言わないが、本音とは違う言葉。
それに苦いものを感じつつ、レイヴンはユーリの後に続く。


どこか違和感を感じる左胸は、濃いエアルのせい…そう思いたかった。
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シゾンタニアへ到着したユーリは街の現状を見て眉をひそめた。
人がいない。
空き家は多い。おそらく、別地域へと避難したのだろう。
加えて、街を出歩くものもいない。
本来ならば、街の住民に話を聞きたいところであったのだが、それをすることはかなわず、ユーリは騎士団駐屯地へと足を向けた。

駐屯地に辿り着いたものの、そこもやはりもぬけの殻。
もともと、駐屯するに騎士の人数が少ない街だ。ここに残る人員を割いていては討伐に支障が出る。
ここにある全勢力をもって討伐に向かったのだろう…勝つために。
万が一のことを考えれば利巧とは言えないが……

そういうのは嫌いじゃねぇ

ユーリは口の端に笑みをのせる。
だが、これで騎士団が討伐に向かった先を詳しく知ることができなくなった。
たしか、あの男が言っていたのはどっかの遺跡ということだったが……
ユーリが頭を悩ませていると、どこからか犬の鳴き声が聞こえてきた。
その声は必死に何かを訴えているように聞こえる。
ユーリはそれに誘われるように犬舎に足を向けた。



窓からひょいと中を覗き込む。
鳴き声の主はあっさり見つかった。
木の枝を口にくわえた青い仔犬。
どこか目つきの悪い犬はユーリをみると大きく一声鳴いた。

「留守番か?ちび」
「ウー…ワン!」
「違うって?おいてけぼりか」
「ワンワン!」

仔犬は不満そうに鳴くと、連れて行けとばかりにユーリのいる方の壁に向かってジャンプを始めた。

「ははっ、なら俺と一緒に行くか?」
「ワン!」

もちろん、というように尻尾を振る仔犬にユーリは手を差し伸べる。
そして、小さな体を抱え上げた。

「じゃあ、よろしくな。ラピード」
「ワン」

犬舎に書かれていた名を呼んでみると満足げな鳴き声を上げる。
どうやら、この仔犬の名はラピードで間違いないようだ。
ユーリは同行者となったラピードを連れて再び歩き始めた。




「……はぁっ……やぁっと追いついた」

レイヴンがユーリの姿をみつけたとき、一人と一匹は森の中を歩いていた。
ラピードは時折道に残った匂いを嗅ぎながら歩いており、はたから見ればのんびり犬の散歩をしているように見える。
ラピードはどうやら先に行った騎士団の者たちを匂いをたどって追ってくれているようだが、仔犬の足はどうしても遅い。
ユーリは仔犬をせかすことなくのんびりと歩いてはいるが、それをつけていくレイヴンのほうが先に限界に来た。

「あーもうっ」

本当いつもどおり後ろで見ておくだけのはずだったのに!

覚悟を決めてユーリの前に姿を見せた。
仔犬が吠える中、見つめあうこと数秒。
ユーリは満面の笑みを浮かべて一言。

「ああ、遅かったな」

なにを言おうか悩んでいたレイヴンは言われた言葉が一瞬理解できなかった。
次いで、ユーリから放たれた言葉。

「ドンにあんた貸してくれって頼んどいたからな。けど、ずいぶん遅かったじゃねぇか。道草でも食ってたか?」


……
………
…………あんのジジイ!

本人を目の前にしては決して言えはしないことを頭の中で羅列する。
結局、いいようにはめられたのだ。
ドンは何も言いはしないが、自分がシュヴァーンとして行っている仕事も知っているに違いない。
それをも利用して今回もまたいいように面倒事を押し付けてきたのだ。
文句の一つでも言えるものなら言ってやりたいが、結局弱みを握られてるのは自分の方。
ドンから言われることは諾々とこなすしかないのだ。

レイヴンは長く長くため息をつく。

「………じゃ、行きましょうか」
「なんだ、えらく疲れてるな。休むか?」
「……そんなひまないでしょ」
「まぁ、そうだな」

ユーリは自分を見上げているラピードを抱き上げ、己の懐に入れると刀をかついで言った。

「じゃ、行くか」

森の木の合間から遺跡らしき建物が見え始めていた。

「ドンー、言われたことやってきたけどー?」

形式だけのノックをして、酒場の奥に足を踏み入れた瞬間、レイヴンの動きが止まった。

何であんたがここに…!

叫びだしたいのをぐっとこらえ、平静を装う…が、できた自信はない。
ここへの出入りをしている天を射る矢の人間も今来客中とは言わなかった。
言ってくれたら…と恨み事を言わずに居れないが、ぐっとこらえる。

「あら、来客中?出直すわ」
「まぁ、待てレイヴン。こいつは気にしなくていい」
「おいおい、オレは気にしなくていい程度の扱いか?」

酒を片手に笑う人物。それは紛れもなく、今は式典に参加しているだろうはずのユーリ・ローウェルだった。
ユーリとドン。レイヴンにとっての監視対象者である二人がこうして並んでいるのだ。レイヴンに驚くなと言う方が無理だろう。
本当ならばすぐにでもこの場から離れたかったレイヴンであるが、ドンに呼び止められてしぶしぶこの場にとどまる。

「てめぇは俺の息子だ。気にする必要があるか」
「ははぁ。まったくありがたいねぇ、親父」

……なんだか、すごいことを聞いた気がする。
だが、自らの保身のためレイヴンはそれを聞かなかったことにした。

「じゃ、報告していいわけ?」
「さっさとしやがれ」

待たせたのは自分のくせに…とこぼしつつ、レイヴンは口を開いた。

「いつから始まったか…ってのは分からなかったけど、シゾンタニアの周辺で魔物の凶暴化・異常繁殖が怒ってるのは確かだったわ。原因はおそらく、魔導器の暴走によるエアルの異常。エアルが濃すぎて魔導器が爆発するっていることまでおこってるみたいね」
「ほぉ」

ちらりと横目でユーリを見る。
彼はただにやにやしながら自分の報告をドンの横で聞いていた。

調子狂うわね…

ユーリのことをできるだけ頭の隅に追いやりながら、報告を続ける。

「で、ここが一番重要よ。なんと、シゾンタニアの軍師殿のところに親衛隊が来てたのよ。もーびっくり」
「なんのためにだ?」
「さぁ?ども、遺跡に魔導器が設置されてるぽいって話だから、それの調査にじゃない?」
「肝心なところが曖昧じゃねぇか。役立たずが」
「ちょっとー!!なによそれー!!」

ぎゃあぎゃあとわめくレイヴン。それを見て、ユーリは声をあげて笑う。
ドンはまぁいい、と会話を区切ると、犬猫でも追い払うようにレイヴンに手を振った。

「てめぇは帰れ」
「はいはい。いーですよ。帰りますよー。勝手に親子団らんでもなんでもして頂戴」

ふてくされつつ、レイヴンが部屋から出ていく。
それを見送って、ようやく笑いをおさめたらしいユーリが口を開いた。

「大した道化っぷりだな」
「まぁ、あれで仕事は確かだ」
「あいつのこと買ってるんだな」
「じゃなきゃ虫なんか飼うか」

ユーリは手に持っていた杯を呷り、一気に空にするとよっこいせ、と立ち上がった。

「行くのか?」
「あぁ、またな」

別れを惜しむ様子もなく、ひらひらと手を振ると、ユーリはそのまま部屋の奥へ消えた。
ダングレストの地下水道から外へ出るのだ。
ドンは自分の酒を飲みつつ、わらう。

「てめぇもあいつのこと気に入ってんじゃねぇか」









一足先に酒場をでたレイヴンは頭を抱えていた。

「あーもう、どうなってんのよー」

まさか、ここに横のつながりがあったとは。
アレクセイもこんなこと気が付いていないに違いない。
かといって、こんなことをアレクセイに報告すれば、ユニオンい対する強硬策にでてもおかしくはない。
もともと、自分がおさめる治世にはギルドは必要ないと思っている男だ。
だが、それを望んでない自分がいる。
自分は道具のはずなのに。

もんもんとするレイヴンの頭に突然衝撃が訪れる。

「いったぁ!!」

後ろを振り返ると、そこにはドンの姿。
隣にユーリの姿はない。

「あれ?息子さんは?」

痛みを忘れてドンに問いかけるが、ドンは答えずにやりと笑うだけ。
その様子を見て、レイヴンは慌てて立ち上がった。

「もう厄介事は頼まれないわよ!」

周りにはドンの命令から逃げているように見せかけ、レイヴンは走り出した。
おそらく、ユーリは地下から外にでたのだろう。
複雑に張り巡らされた地下水道。どこかが外につながっていてもおかしくない。
おそらく目的地はシゾンタニア。
今からなら、道の分からない地下水道を通って後を追うよりも、目的地に走った方が早い。
レイヴンはユーリを追って走った。
それがドンとユーリの思惑の内だと言うことを知らずに。
「悪かったな、フレン。嫌な役目押しつけちまって」

援軍は式典が終わるまで来ない。
そう伝えたフレンに対して、ナイレンの反応はあっさりしたものだった。
まるで初めから結果は分かっていたかのように、そうか、と言ったのみ。
反面、申し訳なさそうにフレンに笑って見せた。
それに対し、いいえと首を振って見せ、そう言えば…と思いだしたことを告げる。

「ローウェル隊長が…」
「あ?ユーリがどうかしたか?」
「いえ…その、よろしく言っといてくれ、と」
「そうか、あいつが……わかった」

口元に笑みを浮かべ、何度か頷くナイレンを見て、フレンは不思議そうに首をかしげる。
だが、結局詳細は教えてはもらえず……

「ご苦労だったな。今日はゆっくり休め」

と追い出された。
こんな宙ぶらりんの状態では、気になってゆっくり休むどころではない…と思ってはいたが、長旅で疲れた体は正直で、フレンはその日夢も見ずに眠った。






夜。
裏門を必死に叩く人影があった。
わずかな明かりを頼りに目を凝らすと、それが騎士だと知れる。
しかも、その騎士服は…

親衛隊がなんでこんなところに……

物陰に隠れてこっそりと窺う。
なんだか、最近…とうかいつも隠れてばかりだなと嘆きたくなるが、今は考えないようにした。

「……森で魔導器を使おうとしたら、爆発を…!」

親衛隊員は息も切れ切れに何者かに訴えかけている。
しかし、相手の人物が慌てている様子はない。

「わかりました。そのことについては私から報告をしておきます。あなたは一刻も早くここから離れなさい」
「ですが…」
「いいですね」
「………了解しました」

男に押し切られる形で、親衛隊員はそれを了承する。
このままでは、相手の顔を見れないうちに扉が閉められてしまう。
レイヴンは物音をたてないように慎重に、だが迅速に動いた。
そして…

あの男は…たしか、ここの騎士団の軍師…

わずかな明かりに照らされた顔はまさしく…ガリスタ・ルオドーだった。
レイヴンはそっとその場を離れる。
彼らの姿が見えなくなり、レイヴンはほっと息を吐いた。

「やっぱり、あの人が一枚噛んでるってわけね」

ガリスタは魔導器研究でも知られた名だ。
その彼がわざわざシゾンタニアの軍師をつとめ、なおかつ親衛隊の報告を受ける。
そうなればガリスタが報告をすべき相手となるのは、皇帝不在の今、騎士団長のアレクセイ以外にない。

「どうりで異常が起こっても放置するわけね。ここは実験場ってとこかしらね」

レイヴンは夜空を見上げて息を吐く。
アレクセイがしたことならば、この事象に関して彼への報告は必要ない。
そもそも、彼は彼が命じたこと以外の報告は好まない。
駒は命じたことだけやっておけばいいというのが彼の持論だ。
今、レイヴンに命じられているのは、ドンの信頼を得てギルド内での地位を築いて内部を探ること、ユーリ・ローウェルの動向を監視すること、の二つだ。
今回のことはアレクセイの命ではなく、ドンからの命令。
信頼を得るためには、与えられた以上の仕事を正確にこなすことが必要。
だから…

「ドンに報告に行きましょうかね」

よっこらせ、と立ち上がり埃をはたく。
そして、夜が明けるころにそっとシゾンタニアを発った。



レイヴンは気付かない。
人形は行動に理由をつけたりなんかしない。
理由を求めるものは、理知あるものだけ。
わざわざ理由をつけて、アレクセイの命に従順な人形であろうとしている彼は、もう人形でなく一人の人間であるのだということを。
だが、まだそれに気付かぬ彼は、人形であることを演じ続けていた。
 

「シゾンタニアは危機に瀕しています。なにとぞ救援を!騎士団長!」

大戦から10年後の記念式典。
名目上、ナイレンの代理として派遣されたフレンはアレクセイの前に跪いていた。
フレンは現在のシゾンタニアの状況を報告し、援軍を送ってくれるようアレクセイに懇願した。
しかし、与えられた答えは冷たいものだった。

「式典が終われば援軍を送る。それまで待て」

頭を伏せたままのフレンの顔がゆがみ、拳が固く握られる。
街の人々が襲われるかもしれない危機よりも、式典のほうがそれほどに重要なのか。
さらに口を開こうとしたフレンをアレクセイはきつく睨み据えた。

「くどい。ナイレンへは援軍が到着するまで勝手に動くなと伝えろ。貴様ごとき新米の兵は式典に参加せずともよい。その伝言をもってシゾンタニアへ戻れ」

取りつく島もないほどにばっさりと切って捨てられる。
耐えがたいほどの屈辱。
それをフレンはぐっと唇をかみしめて耐えた。
ここで自分が追いすがったとて、騎士団長の決定は覆らない。
それならば、この決定を隊長へ伝えて判断を仰ぐべきだ。

立ち上がろうとしたフレンに、アレクセイの側近の男から声がかかる。

「シーフォ…君はあのファイナス・シーフォの息子か?」

男の口から出た父の名前に、フレンは思わず顔を上げる。
男はフレンの驚いた表情を見て満足したのか、にやにやと厭らしい笑いを浮かべて言葉をつづけた。

「君の父親は残念だったねぇ…上の命令を無視した揚句命を落とした。おとなしく従っていればよかったものを…まったく、無駄死にだ」

男の言葉に、頭が真っ白になる。
表情をなくしたフレンをよそに、男の言葉は続く。

「君はさっさとフェドロッ隊長に騎士団長の命を伝えてくれたまえ。くれぐれも、命令違反などして犬死しないように…とな……ひっ」

男の言葉が終るか終らないか…というとき。轟音が響いた。
見ると、隊長服を着た男が扉を蹴ったようだった。
扉は激しい衝撃を受けたのが見てわかるほど歪んでしまっている。

フレンはその人物を知っていた。
話したことはないが、とても有名な人物であったから。

「ろ、ローウェル隊長……」

震える声で男がその名を呼ぶ。
ユーリはけだるそうに頭をかきながら男との距離を詰める。

「おい、ひとンとこの新人に教授してやる暇があるんなら、とっとと騎士団長様のとこに行ったらどうだ?」
「は、そ、そうですね。失礼します」

ユーリにすごまれた男は逃げるように走って出ていく。
その様子を呆然と見送ってから、フレンは突然この場に現れた隊長を見上げた。

助けて…くれた?けど、どうして…?

わけがわからずただ見上げるだけのフレンの腕をユーリは何も言わずに引き、立ち上がらせるとドンと背中を押した。

「ナイレンによろしく言っといてくれ」

ひらひらと手を振ってユーリは一人さっさと帰っていく。
フレンに告げられたのはただそれだけ。
自分を助けた理由も、何を隊長によろしく伝えるのかも、何もわからぬまま。

……考えてても仕方ない

フレンは気持ちを切り替えるために2,3度頭を振ると早足で歩き始めた。
一刻も早くシゾンタニアへ戻るために。






ユーリは自分の執務室へ戻ると、黙々と仕事を片づけていた。
デスクワークが苦手な彼にしては、空から槍が降るくらいに珍しいこと。
ユーリは最後の一枚らしい書類にサインを書き終えると、大きく伸びをした。
そこへ、荒々しく扉を開いて入ってくるもの。

「ユーリ!」
「よぅ、アシェット」

ローウェル隊の隊服を着た騎士…ユーリの副官であるアシェットはユーリに詰め寄ると、ダン、と机に両手を打ち付けた。

「なんで俺が式典なんかに参加しなくちゃならないんだ!」
「お。なんかなんて言っていいのか?騎士団長様に怒られるぜ」
「お前が言うか!」

はっはっは、と笑うユーリにアシェットは一枚の紙を突き付ける。

「その騎士団長様から、お前に、伝言だよ!必ず式典には参加しろとさ!」
「だから、辞表出しただろ?」
「そんなもの、俺が認められるか!」

いつもは隊長であるユーリに対して、同期ではあれど敬語を使う彼ではあるが、すっかりそれを忘れて怒鳴る。
ユーリはそれを面白そうに見て、じゃぁ、と言葉を区切る。

「病欠ってことで」
「馬鹿かお前は!」

アシェットの怒鳴り声などなんのその。
ユーリは騎士服を脱ぎ捨て、ラフな私服に着替えると愛刀を肩に担いで笑った。

「じゃ、後よろしくな」

振り返りもせずに窓から出かけていくユーリを見送り、アシェットはがっくりとうなだれた。
ユーリの行き先が分かるからこそ、強く引き止められなかった自分が恨めしい。
これから騎士団長の刺すような視線の前に立たされる自分を想像し、アシェットは胃が痛むのを感じた。

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