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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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踏み入れた街の惨状は想像以上のものだった。
いつもは活気にあふれた街が、いまや見る影もなく、逃げ惑う人々であふれている。
しかも、街の中では魔物が街の人々に襲いかかっているところだった。
ユーリは蒼破斬を繰り出しその魔物を打ち倒すと、倒れている少女に駆け寄った。

「大丈夫か?」
「あ…ありがとう」

少女はユーリを見上げるとほっとしたように息をついた。

「どうなってる?」
「わからない…突然…多分ギルドの人だと思うけど…大きな剣とか持ってる人が大勢来て…そのあとにコロシアムのほうから魔物が…」
「…捕まえてあった魔物が逃げたのか。でも妙だな。ベリウスの力と逆結界で抑え込んでたはず…」

たとえ魔導器が壊れても、ベリウスが抑え込むはず。
それができなかったとなると…

「ベリウスに何かあったのか?」

ユーリは険しい顔をしてつぶやく。

いやな予感がする。

ユーリは少女を立たせ、建物の中に逃げるよう指示を出すと、闘技場へと走った。



闘技場につくと、魔物と人が入り混じって戦闘が行われていた。
しかし、それは魔物と人との戦いだけではなく、人と人とが戦っているものもあった。
ユーリは戦士の殿堂と戦っている人間の甲冑に刻まれている紋章を見て目を見張った。

魔狩りの剣

ユーリは大きく舌打ちをし、彼らを昏倒させていく。
殺しはしないが、早々に気付かれても困る。
素早い動きで敵を倒しながら、奥へと走る。
闘技場の中心へたどりつくと、そこに多くの魔狩りの剣のメンバーに囲まれたナッツの姿を発見した。

「ナッツ!!」

ユーリは叫びながら剣を振りかぶった。
そしてそのままの勢いで囲んでいた連中を吹き飛ばす。

「貴様、何者だ!我ら魔狩りの剣の邪魔をするなら、容赦はしない!」

まだ幼い少女がそう叫ぶと、大きな輪刀を構えた。
ユーリはそれを冷たい目で見つめると、冷やかに声を放つ。

「ここは戦士の殿堂の街だ。魔狩りの剣が何の用だかしらねぇが、この街を侵略するのならば徹底的に潰させてもらう」

ユーリの気迫に押され幾人かが後ずさる中、少女は気丈にも言い返した。

「戦士の殿堂は魔物を頭に据えた魔物の手下の集まりだ!魔物を庇い、かくまっている!そのような悪を我々は許しはしない!」

ユーリはなるほどな、と内心納得する。
戦士の殿堂とことを構えるほどの理由。
何のことかと思えば…彼らはここに逃げ込むバウルの姿を見たのだろう。その上、ベリウスのうわさも聞いたにちがいない。
魔狩りの剣は理性のない魔物だけを狩っているだけではなく、始祖の隷長をも狙っていると聞いた。
彼らにとっては魔物が知性・理性を兼ね備えているかなどどうでもいい。
魔物であるがゆえに悪。
そう極端な思考に偏ってしまっているのだ。
たしかに、魔物によって家族を奪われるものは多く、恨む気持ちも理解できる。
だが……

「だからって、街の人間を巻き込んでまでやることじゃねぇ」
「この街に暮らす者も、同罪だ!」

その言葉に、戦意をそがれていたほかの魔狩りの剣の連中も剣を構えなおした。
ユーリはそんな彼らに冷たい笑みを向ける。

「そうかい。じゃ、本気でいかせてもらうぜ」

ユーリが力を解放しようとしたとき…天井にひびが入り、上から大きな体が落ちてきた。

「ベリウス様!」

ナッツが叫ぶ。
しかし、気付いたとしても彼女の巨体を受け止めることなど到底できず、あえなくベリウスの体は床にたたきつけられた。
ベリウスはうめき声をあげながらもすぐに起き上がる。
そして、目の前の人間をきつく睨み据えた。
ユーリはベリウスとともに降ってきた人物を目にすると、すぐさま剣を持って走った。
そして、その人物が落ちた衝撃から立ち直る前に、ひたりと剣を首筋に突き付けた。

「首領!」

少女が叫ぶ。
ユーリは周りの人間の叫びになど耳を貸さず、まっすぐにその男を見下ろした。
魔狩りの剣のトップ・クリント。
さすがに、ギルドのトップメンバーの顔は把握している。

「このおとしまえは、あんたがつけてくれるんだろうな?」

首筋に据えられた刀がクリントの皮膚を裂き、わずかに血がにじむ。
魔狩りの剣のメンバーがにわかに殺気だつが、首領の命が危ういとあってはうかつに動くこともできない。
周りが固唾をのんで見守る中、刀を突き付けられたクリントは少しも焦った様子もない。

「俺を殺すのは構わない。だが、魔狩りの剣はたとえ最後の一人になろうとも、魔物を狩ることをやめはしない。俺がいなくなれば、ティソンが代わりに引き継ぐ。」
「じゃぁ、両方殺すか」
「言っただろ!最後の一人まで戦うことをやめはしねぇ!無駄だぁ!」

ティソンが高らかに叫ぶ。
彼らの言葉を聞いて、ユーリの手に力がこもる。
その時、静かな声がユーリに語りかけた。

「やめるのじゃ、ユーリ。血で血を洗うような行いの先に道は出来ぬ」
「ベリウス…」

決して浅くない傷を負いながらも、彼女は毅然とその場にたっていた。
やめろという言葉に従いたいのは山々だが、魔狩りの剣が対話を受け入れそうにないこの状況下において、剣を引けばベリウスの身を危険にさらすことになる。
身動きできないこの状況下にひとつの風が流れ込んだ。

「双方、剣をおさめよ!」

その声の主を、ユーリは嫌というほど知っている。
そして同時に、タイミングの悪さを呪った。

なんで今来るんだよフレン

げんなりとして振り返ると、隊長服に身を包んだフレンが、扉の前に立っていた。
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ノードポリカへと向かう船の上。
もうすぐにそちらにつくというとき…陸地から立ち上る煙が見えた。

風にのって漂ってくる焦げた匂い。
胸がざわめく。

船に乗っていたほかの乗組員たちもそれに気付いたのか、ざわめき始める。

「おい・・・あれって・・・」
「火事・・・か?」
「馬鹿な。あそこは戦士の殿堂の街だ」
「だが・・・」

信じられない思いで、船を走らせる。
だが、徐々に肉眼でも確認できるようになった街。
その惨状は皆の否定したい気持ちを裏切るものだった。
逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえ、魔物の雄叫びすらまじる。
煙の出所は、ノードポリカの象徴ともいえる闘技場からで、その焼け焦げた匂いは近づけば近づくほど濃さを増し、鼻をつきさす。

「どういうことだ・・・?」

自分の育ての親の街、故郷ともいえる街の惨状にユーリは言葉を失う。
それは、船の乗組員らもおなじだったようで、誰もが言葉をなくしてただ立ち尽くすのみ・・・。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
ユーリはこぶしを強く握ると、船の船員に詰め寄った。

「おい!なんとか船をつけられないか!?」
「・・・この状況じゃ・・・」
「じゃあ、このまま見てろって言うのか!?」
「・・・・・・」

ユーリの剣幕に船員たちは気圧され、目をそらす。
その様子はもうすべてをあきらめているように見え、ユーリを苛立たせた。

「なら、小舟でも何でもいい。貸してくれ」
「あんた!一人で行く気か!?」
「あそこには恩人がいる。逃げるわけにはいかねぇんだよ」

ユーリは船員の答えも聞かず、船の横に設置されている救命用のボートに近づく。
そしてテキパキとくくってあるロープを外し始めた。
船員はそれを止めることもできず、仲間と顔を見合わせるばかり。
そこへ、ひと際野太い声がかかった。

「そんな小舟じゃ陸地まで行くのに時間がかかるぜ」

声をかけられたユーリは作業の手は止めないまま、声の主に目をやる。
潮風にあたり、ぼさぼさな髪。
筋骨隆々とした体つきにまとった服は所々が擦り切れて、この男がどれほどこの海ですごしてきたのかを窺わせる。
おそらく船長だろうその男はユーリにニヤリとした笑みを向けた。

「おせぇのなんかわかってる。けど、いかねぇよりはましじゃねぇか?客が乗ってる船をあんなとこにつけられねえっていうあんたらの事情もあるだろうが、俺には俺の事情がある」

挑戦的に睨みつけるユーリ。
だが、船長は気分を害するどころか、さも愉快といわんばかりに豪快に笑った。

「はははっ!!こいつらの陸に上がりたがらねぇ理由をそんな風に解釈してくれるとはありがてぇがな、こいつらは陸でのもめごとにゃ慣れてねぇ。単純にそれが怖くて臆病風に吹かれてんのよ!」

豪快に笑う船長とは反対にあせたのは乗組員たちだ。
船のトップである船長にそんなことを言われて、あせったように口を開く。

「船長!俺たちは別に・・・っ!」

弁解しようと詰め寄ってくる船員たちに、猫の子でも追い払うよう手を振って船長は言葉をつづけた。

「俺たちは海専門だ。海のことじゃだれにも負けねぇ自信はある。だが、陸のことは範疇外だ。お前さんは逆だろう?」
「まぁな」

とりとめのない話に聞こえるが、なんとなく話が見えてきた。
ユーリはロープをほどく手を止めると、不敵に笑う男を見返した。
それを見て、男はさらに笑みを深くする。

「なら一つ協力と行こうじゃねぇか。俺らはあんたを送って、市民を避難させる。海のほうが安全だからな」
「で、俺には陸のごたごたを片づけて来いって?平等性に欠けてねぇか?」

別に条件を拒否するつもりではないが、ただの旅人一人に対する条件にしてはきつすぎやしないかと、ユーリは苦笑して肩をすくめて見せる。
だが、男は当然とばかりに言い放った。

「それくらいで十分だろう。あの方の養い子ならな」

男の言葉に、ユーリは息をのんで目を丸くする。
その表情を見て気を良くしたのか、男は大きく声を張り上げた。

「野郎ども、全速前進だ!住民の救助に向かう!」

船長の指示が出たならば、船に乗る男たちに否やはない。
船はすぐさま、ノードポリカに向かって走り出した。

ポカンとしていたユーリも、男たちが動き出したのを機に我に返る。
こんなときだというのに、笑みがこみ上げてくる。
どこにあっても、ベリウスが自分を支えてくれている。
ユーリはそっと自分の背に手をやると瞳を閉じた。

陸はもう目の前だ。
コメントくれた方へのお返事です。
長々放置してすいませ・・・っ
3/29
「はぁ・・・・はっ・・・くそ・・・っ」

森の中、息を切らして走るユーリ。
思うようにいかない事態に悪態をつき、もしもの時にと決めていたジュディスとの落ち合い場所に向かう。
裏をかけない自分が悪いのか、こういうときだけ勘の鋭い友が悪いのか。
自分が悪いとはわかってはいるが、邪魔されるのが2度目ともなると、フレンを呪いたくなってくる。
そして、いやなことはもうひとつ。

「・・・またおっさんに借り作っちまった・・・!」

あのおっさん・・・もとい、裏にいる悪徳団長殿に借りを作るとろくなことがない。
いやというほどそれを体験させられたユーリは、後々のことを考えてため息をつく。
だが、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。
今はそれよりも逃げたキュモールを追うほうが先決だ。

「ジュディ!」
「あら、ユーリ。どうしたの?そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたも・・・」

走って乱れた髪をいらだたしげにかきあげ、ジュディスを見る。
すると、彼女の様子がいつもと違うことに気づいた。

「そっちこそ、どうした?なにかあったのか?」
「え?」
「泣きそうな顔してるぜ?」

ユーリの言葉にジュディスは驚いた表情で返す。
そして、自分を落ち着かせるように息をついた。

「別にそんなつもりはないのだけれど・・・」
「無理するなよ。で、どうした?」
「バウルが・・・」
「バウルがどうした?」

ジュディスの視線の先を追うと、薄暗い森の中隠れるようにして地面に横たわるバウルの姿があった。
呼吸が荒く、普段は生気にあふれているその瞳はけだるげに細められている。
ユーリはバウルに駆け寄ると彼のそばに膝をついた。

「病気か?」
「いいえ・・・病気ではないのだけれど・・・。進化が始ってしまったの。」
「進化?」

ジュディスによると、バウルはまだまだ子どもの始祖の隷長であり、進化を経てエアルの調整を担うベリウスらのような始祖の隷長となるのだという。
それには少なからず痛みを伴う。
今は進化が始まったばかりであるから、まだ苦痛は少ないようだが、このままここにいることはバウルにとって危険でしかない。
何といってもここはすべての魔物を憎む魔狩りの剣の本拠地・・・ダングレストのそばだ。
見つかってしまう可能性は少なくない。

「まずいな・・・バウル・・・飛べそうか?」
「どう?バウル」

バウルは気だるそうにだが、一声鳴くとゆっくりとその身を起こした。

「なんとかいけそうだって。・・・でも、どこへ行く気?」
「ベリウスのとこだ」
「確かに、彼女のとこなら安全だけど・・・ここからじゃずいぶん遠いわ」

顔を曇らせるジュディスの肩を、ユーリは軽くたたく。

「けど、いくしかない」
「・・・そうね。そうするしかないわね」
「今のバウルに俺とジュディ二人乗るのは無理だな。ジュディは用心棒がてらバウルと一緒に行ってくれ。おれは船乗り継いでいく。」
「わかったわ」

決断してしまえば、あとは行動派の二人。
闇にまぎれることができるよう、バウルは夜を待ってからとびたち、ユーリもまたノードポリカへと急いだ。
逃してしまったキュモールが気にならないでもないが、あの状態のバウルとジュディスを放っておけはしない。

ユーリは思うようにならないいらだちを抑え、道のりを急いだ。
ヘリオード。
開発都市であるこの都市は、まだあちらこちらで金槌の音が響いている。
汗を垂らしながら働く市民とは対照的に、それを見張るかのように佇む兵士。
街の右手には帝国騎士の駐屯所が存在しており、中央には街を象徴する結界魔導器。
しかし、そこにはもうひとつ謎なものがあった。
下へと続く昇降機。
その昇降機は労働者のキャンプへつながっているといわれるが、そこには兵士が見張りに立っており、労働者が自由に行き来している様子はない。

ぬぐえない違和感。

そして、もうひとつ。
ここで働く労働者が口々に言うセリフ。
ここで働いてポイントを稼げば、貴族として迎えられる・・・と。


「あら、そんな制度できたの?」
「俺が知る限りじゃ、ねぇよそんなの」

働く労働者をみながら、ユーリはため息をつく。
少し考えれば、そのような事実がないことなどわかりそうなものだが・・・困った人は藁をもつかむということなのか、はたまた、甘い話に弱いということなのか・・・
だが、騙されて働かされている彼らをそのままには出来ない。


「ほっとくわけにもいかねぇし、ちょっと調べるか。ジュディ、魔導器の件は後回しだ。さすがに結界魔導器をぶち壊すわけにはいかねぇだろ?」

町の中心で光り輝く結界魔導器。
今は静かに輝いているだけのそれではあるが、刻まれている術式はヘルメス式。
早々に発見はしたものの、その重みに手を出しあぐねていたのだ。

「そうね・・・あのままってわけにはいかないかもしれないけれど・・・今壊したら人が住めないでしょうし」
「そういうことだ、俺はこの街の責任者の動きを探ってくる・・・ま、誰が何やってるか・・・予想はついてるがな」

ユーリはため息をついてこの街を警護する兵士を見やる。
どれも、キュモール隊の隊服を身にまとっている。
それだけで、誰が黒幕かなどとは言わずとも知れることだ。

ただ、その張本人の姿は見えない。
どこに隠れているのか・・・。
あやしいのはやはり、あの昇降機・・・。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「いってらっしゃい。何かあったら、バウルを呼ぶわ」
「あぁ、頼む」

ユーリはジュディスに軽く手をあげると、身をひるがえした。











一方。ユーリに遅れること数日。
フレンたちもまたヘリオードにたどりついていた。
そして、ユーリたちと同様に、彼らも町の状況を見て眉を寄せた。

「これはいったい・・・貴族になれるだなんて、どうしてそんな嘘を・・・」

帝国の人間が行っているだろう仕業を前にして、エステルは言葉を無くす。
しかし、このようなことが帝国首都から離れた地域では蔓延していることを、フレンは知っていた。
帝国のトップを欠いた状況が続き、その目を盗んで私利私欲を肥やす輩が増長してきているのだ。
それを裁く騎士団ですら、評議会の権力の前に抑えられているのが現状。
このままでは、いつクーデターを企てる輩が表れたとて不思議ではないのだ。

フレンはギュッと拳を握りしめた。
このままはいけないとわかっているのに、なにも出来ない自分の立場。
悔しい


・・・ユーリもこんな気持ちなのかな・・・だから、あんなことを・・・


ふと思い浮かぶのは友の顔。
だが、それを振り払うかのように首を振った。


「ねぇ、フレン。ここにユーリはいるのかな?」

自分を見上げてくるカロルに、フレンは確信をもって頷いた。

「この異様な状況。やはり、ここの統治者であるキュモールが何かを企んでいるのは間違いない。この状況を世界を飛び回る竜使いがつかんでいないはずはありませんから。必ずどこかにいるはずです」
「では、まずはユーリを?」
「いえ、人にまぎれているだろうユーリを探すよりは標的となっているであろうキュモールを押さえたほうがいいでしょう。この状況を起こすキュモールは裁かなくてはいけませんし」
「じゃ、急いだほうがいいんじゃない?あたしたちは後手に回ってるわ。急がないと、手遅れになるんじゃない?」

リタの指摘に、話を深めていたエステルははっと我にかえる。

「そうですね、急ぎましょう。フレン」

その言葉に従う意思を示しながら、フレンは自分の腰の剣を確かめるかのように握った。
ユーリを止めるという目的だが、エステルに怪我をさせるようなことがあってはならない。
気を引き締めていかねば・・・。

決意を新たにして、フレンは先頭を歩く。
そして、昇降機の前に立った。

「私は騎士団長アレクセイ指揮下小隊、小隊長フレン・シーフォだ。この下で何が行われているか確かめたい!道を開けてもらおう!!」

辺りが警戒の色に染まった。







・・・上が騒がしいな

労働者に身をやつしたユーリは黙々と仕事をするふりをしつつ、あたりをうかがった。
上が町の建設を行っているのに比べ、ユーリのいる下階は裏の仕事と言えるものが行われていた。
それは武器の生産。
詳しい目的まではわからないが、ろくでもないことが計画されているのは間違いない。
もう少し内情をうかがいたいところであったが、首謀者であろう人間の姿はいまだ見えず。
だが、上が騒ぎになっている所をみると、ゆっくりはしていられないようだ。

さて、どうするか・・・



「どうなってるんだい!?この騒ぎは!」

耳障りな甲高い声。
普段はうんざりした顔で聞き流したいところであるが、このときばかりはようやく待ちに待った相手。
ユーリの顔がにやり、と歪む。

「ようやくおでましか」

上の騒ぎにあぶりだされる形で姿を見せたキュモール。
きんきんと怒鳴られ、あわてて部下が頭を下げる。

「申し訳ありません、キュモール様。上にアレクセイの手の者が・・・下を見せろと」
「それぐらい、追い返しちゃいなよ!ラゴウといい、おまえたちといい役に立たない!!」

いらいらとして怒鳴るキュモールから出た、ラゴウの名。
物陰に隠れて様子をうかがっていたユーリはその名を聞いて、眉をひそめた。

騎士団のキュモールと評議会のラゴウ。用途不明の武器製造。
不明な箇所が多いが、嫌なことが連想されて仕方がない。

「もういいよ!さっさと出来てるものだけ馬車に乗せて運べ!僕は先に行くよ!おまえはここで足止めをするんだ!」
「キュモール様!?」
「アレクセイの名が出たってことは、僕を捕まえる気でしょ!僕は騎士団を率いる男だよ。こんなところでアレクセイなんかにつかまってたまるものか!抑えきれないのはお前なんだ!せいぜい時間稼ぎ位はするんだね!!」
「そんな・・・」

がくりと膝をつく部下には目もくれず、キュモールは用意された馬車へと向かう。
それをみて、ユーリも焦る。
ここで逃げられては、何のために数日間やりたくもない仕事をしてきたのかわからなくなる。
だが、ここでキュモールを始末しても、計画の全貌が分からなくなる。

・・・ったく、誰だ・・・こんなことしやがるのは!

悩んだ挙句、ちっと舌打ちをして飛び出した。

とりあえず、キュモールをとっ捕まえて、後で吐かせる!!

工具に隠してあった剣を取り、キュモールに向かって走る。
そして、その切っ先をつきつけようとしたとき・・・目の前を横ぎる影。

ギィン!という金属の合わさる音とともに、強制時に止められる足。
一瞬、キュモールの悲鳴が聞こえたがそれはすぐにバタバタと走り去る音にかわる。

逃げられる・・・!!


「邪魔をするな・・・・・・フレン!!!」

立ちふさがったのは友。
後ろには、こちらを不安そうに見るエステルやカロルの姿がある。
そして、キュモールを乗せて走りだす馬車。

今から追ったとして、追いつけるか・・・

「ユーリ、君のしていることは許されることではないんだ!こんなことはもう・・・」
「許すとか許さないとかじゃねぇんだよ。これは俺がやらなきゃならないことだ!」
「ユーリ!!」

一歩も引かない力のせめぎあい。
お互いに譲らない膠着状態。

「どうして、君がこんなことをしなくてはならないんだ!」
「俺が決めたんだよ」

ユーリの揺るがない瞳を目にして、フレンの顔がゆがむ。

「どうして・・・何も話してくれないんだ!ユーリ!!」

フレンの叫び。
今まで友として過ごしてきたのだ。その気持ちをユーリとてわからないわけではない。
だが、譲れないものはあるのだ。


にらみ合う二人。
ずっと続くかのように思われたその時間は、唐突に終わりを迎えた。
誰も手出しできないその空間を裂くようにはしった一本の矢。
それを避けるように、二人は一瞬にしてはなれ、距離を置いた。

フレンが矢の飛んできた方向を確認すると、そこには一つの人影。
逆光で顔はよく見えないが、その姿は騎士団の鎧。
それも、隊長クラスの・・・

「まさか・・・シュヴァーン隊長・・・?」
「何をしている、フレン・シーフォ。キュモールを追え」
「し・・・しかし!」

「フレン!ユーリがいません!!」

シュバーンに対して意見を述べようとするが、そこへかけられたエステルからの言葉にはっとして、フレンはユーリが飛びのいた方向を見る。
だがそこにはすでに、彼の黒い影すらもなく・・・
フレンは悔しさに歯をかみしめる。

「フレン・シーフォ」

シュヴァーンから再度名を呼ばれ、フレンは悔しさを押し殺して敬礼を返す。
そして、もう逃げてしまったであろうキュモールを追った。

せめてその足取りだけでもつかむために。
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