TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。
出版元・製作元様方には一切関係ありません。
また、突然消失の可能性があります。
嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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流血描写が含まれますので、苦手な方は注意を。
ユーリは静かに平野を駆けた。
幸いにも騒ぎの間に日は暮れ、身を隠すのにはもってこいの時間帯。
ユーリは夕闇に紛れるように走った。
日が暮れた後では目的の人物も探しにくくなるものではあるが、キュモール相手ではそれは当てはまらない。
ご丁寧に大きな馬車の周りに火を焚き、警備の騎士が周りを固めている。
「まったく、隠れて行動する気がないのか、こいつらは」
思わず口からため息がもれる。
どの貴族もそうだ。
自分が我慢するというのは拒否するくせに、周りのミスには厳しい。
奴は警備の中でぬくぬくと報告を待っているのだろう。
ユーリは気力が萎えそうになる自分に喝をいれて、剣を握った。
「がっ」
「貴様、何者……うあぁ!」
「こいつっ」
「なんだい?騒がしいね」
うとうととしていたキュモールは目をこすりながら体を起こした。
どうやら、警備の騎士が何者かと争っているらしい。
詳しい状況までは分からないが、何者かが集団で襲ってきた様子もないし、武器同士が切り結ぶ音などしないから、相手は魔物か何かなのだろうと見当をつける。
それに、何かあれば真っ先に報告が来るはず。
それが来ないとなると、どうせ大したことはないのだろう。
魔物ごときの襲撃を受けたくらいで自分を起こすなとも命じてある。
キュモールはすぐに静かになった外を確かめることもせず、再び布団を引き寄せる。
しかし、それをかぶって横になることはかなわなかった。
何かが馬車の上にトン、と乗るような音がした直後。まるで自分の位置がわかってるかのように上からまっすぐに剣が突き刺された。
「ひっ…ひぃいいい!」
剣先はキュモールの頬をかすめて止まる。
キュモールは自分の頬に温かな滴が伝うのを感じると、馬車の扉を開け、外に転がり出た。
すぐに警備の騎士を怒鳴りつけようとしたが、その目に映ったのは一人残らず倒された騎士たちの姿。
「なっ……なっ!」
驚きのあまり言葉にならない声を発するキュモールの背後で足音が聞こえる。
キュモールは勢いよく背後を振り返った。
目に入った人物はキュモール自身も知る人物。
「貴様、ユーリ・ローウェル!」
ユーリの顔を見た瞬間、キュモールはおびえから憎しみへその表情を変えた。
ユーリは一切の感情を窺わせぬ冷えた表情で、キュモールを見返した。
「貴様みたいな下賤なものが、貴族である僕に向かって何を…!」
「黙れよ」
金切声でまくしたてるキュモールに辟易したユーリはそれをやめさせるために左手に持つ刃を、キュモールの鼻先に突きつけた。
「ひっ…こんなことして、どうなるかわかって…」
「別にどうもならないさ。お前一人消えたところで…何も変わらない」
ユーリは自嘲気味に笑う。
しかし、剣先はわずかにもぶれることなく、それがキュモールの恐怖をあおった。
服が泥にまみれるのも構わず、キュモールは尻もちをついたまま後ずさる。
ユーリはあえてそれを追わなかった。
わずかずつではあるが、二人の間に距離が開く。
しかし、それでは逃げることはできないとキュモールにも分かっていた。
しかし、そうせずには居られなかった。
やがて、後ずさるキュモールの背が木にあたる。
ユーリはおびえるキュモールに一歩一歩歩み寄った。
「何も変わりはしねぇが、少しの間でも生きやすい世の中にはなるだろ」
「ひっ…た、たすけ……」
雲に隠された月が顔をのぞかせ、あたりがうっすら明るくなる。
その時、キュモールは見た。
ユーリの剣に刻まれた紋様を。
「あ、あ、暗行……」
しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「ユーリ・ローウェル……貴様……っ!」
ユーリはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、こちらを睨みつけるソディアの姿があった。
こと切れたキュモールと血に濡れた刀。
瞬間を見ていなくとも、一目瞭然。
ソディアは怒りにまかせ、ユーリに叫んだ。
「貴様、隊長の友人でありながら、人殺しを……!」
「そんなこと、何の関係もねぇよ」
敬愛する隊長をそんなこと扱いされ、貶められたとおもったか、ソディアの目つきが厳しさを増す。
彼女はためらいなく剣を抜いた。
「貴様のようなものは、隊長のためにならない!」
「なら、激情にまかせて己の職務を忘れるような副官はためになるのか?」
「黙れ!」
ソディアは感情に流されるまま剣を振るう。
しかし、そのような剣ではユーリをとらえることはできない。
無駄のない動きでユーリは剣を避ける。
「貴様のような奴はぁ!!」
「…うるせぇよ!」
まっすぐにユーリに向かって振り下ろされた剣。
ユーリはそれめがけて自らの剣を振るった。
硬質な音が響き、ソディアの剣が弾き飛ばされる。
剣は回転しながら弧を描き、地面に突き刺さった。
呆然とするソディアを一瞥すると、ユーリは剣をおさめた。
「半端な覚悟しかねぇ奴に命やるわけにはいかねぇんだよ」
ソディアはぐっと唇をかんだ。
言い返したいことは山ほどある。けれど、言葉が出てこなかった。
ユーリはそんなソディアを見ぬまま、その場を後にした。
ユーリ・ローウェルがキュモールを殺して逃走
その知らせは、その日のうちにフレンに届けられた。
初めは信じなかったフレンだったが、キュモールの体に残された迷いない太刀筋と、当時警備をしていた騎士たちの証言から、それを真実と認めざるを得なかった。
フレンはユーリの消息を追ったが、その行方をつかむことはできなかった…。
ユーリは静かに平野を駆けた。
幸いにも騒ぎの間に日は暮れ、身を隠すのにはもってこいの時間帯。
ユーリは夕闇に紛れるように走った。
日が暮れた後では目的の人物も探しにくくなるものではあるが、キュモール相手ではそれは当てはまらない。
ご丁寧に大きな馬車の周りに火を焚き、警備の騎士が周りを固めている。
「まったく、隠れて行動する気がないのか、こいつらは」
思わず口からため息がもれる。
どの貴族もそうだ。
自分が我慢するというのは拒否するくせに、周りのミスには厳しい。
奴は警備の中でぬくぬくと報告を待っているのだろう。
ユーリは気力が萎えそうになる自分に喝をいれて、剣を握った。
「がっ」
「貴様、何者……うあぁ!」
「こいつっ」
「なんだい?騒がしいね」
うとうととしていたキュモールは目をこすりながら体を起こした。
どうやら、警備の騎士が何者かと争っているらしい。
詳しい状況までは分からないが、何者かが集団で襲ってきた様子もないし、武器同士が切り結ぶ音などしないから、相手は魔物か何かなのだろうと見当をつける。
それに、何かあれば真っ先に報告が来るはず。
それが来ないとなると、どうせ大したことはないのだろう。
魔物ごときの襲撃を受けたくらいで自分を起こすなとも命じてある。
キュモールはすぐに静かになった外を確かめることもせず、再び布団を引き寄せる。
しかし、それをかぶって横になることはかなわなかった。
何かが馬車の上にトン、と乗るような音がした直後。まるで自分の位置がわかってるかのように上からまっすぐに剣が突き刺された。
「ひっ…ひぃいいい!」
剣先はキュモールの頬をかすめて止まる。
キュモールは自分の頬に温かな滴が伝うのを感じると、馬車の扉を開け、外に転がり出た。
すぐに警備の騎士を怒鳴りつけようとしたが、その目に映ったのは一人残らず倒された騎士たちの姿。
「なっ……なっ!」
驚きのあまり言葉にならない声を発するキュモールの背後で足音が聞こえる。
キュモールは勢いよく背後を振り返った。
目に入った人物はキュモール自身も知る人物。
「貴様、ユーリ・ローウェル!」
ユーリの顔を見た瞬間、キュモールはおびえから憎しみへその表情を変えた。
ユーリは一切の感情を窺わせぬ冷えた表情で、キュモールを見返した。
「貴様みたいな下賤なものが、貴族である僕に向かって何を…!」
「黙れよ」
金切声でまくしたてるキュモールに辟易したユーリはそれをやめさせるために左手に持つ刃を、キュモールの鼻先に突きつけた。
「ひっ…こんなことして、どうなるかわかって…」
「別にどうもならないさ。お前一人消えたところで…何も変わらない」
ユーリは自嘲気味に笑う。
しかし、剣先はわずかにもぶれることなく、それがキュモールの恐怖をあおった。
服が泥にまみれるのも構わず、キュモールは尻もちをついたまま後ずさる。
ユーリはあえてそれを追わなかった。
わずかずつではあるが、二人の間に距離が開く。
しかし、それでは逃げることはできないとキュモールにも分かっていた。
しかし、そうせずには居られなかった。
やがて、後ずさるキュモールの背が木にあたる。
ユーリはおびえるキュモールに一歩一歩歩み寄った。
「何も変わりはしねぇが、少しの間でも生きやすい世の中にはなるだろ」
「ひっ…た、たすけ……」
雲に隠された月が顔をのぞかせ、あたりがうっすら明るくなる。
その時、キュモールは見た。
ユーリの剣に刻まれた紋様を。
「あ、あ、暗行……」
しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「ユーリ・ローウェル……貴様……っ!」
ユーリはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、こちらを睨みつけるソディアの姿があった。
こと切れたキュモールと血に濡れた刀。
瞬間を見ていなくとも、一目瞭然。
ソディアは怒りにまかせ、ユーリに叫んだ。
「貴様、隊長の友人でありながら、人殺しを……!」
「そんなこと、何の関係もねぇよ」
敬愛する隊長をそんなこと扱いされ、貶められたとおもったか、ソディアの目つきが厳しさを増す。
彼女はためらいなく剣を抜いた。
「貴様のようなものは、隊長のためにならない!」
「なら、激情にまかせて己の職務を忘れるような副官はためになるのか?」
「黙れ!」
ソディアは感情に流されるまま剣を振るう。
しかし、そのような剣ではユーリをとらえることはできない。
無駄のない動きでユーリは剣を避ける。
「貴様のような奴はぁ!!」
「…うるせぇよ!」
まっすぐにユーリに向かって振り下ろされた剣。
ユーリはそれめがけて自らの剣を振るった。
硬質な音が響き、ソディアの剣が弾き飛ばされる。
剣は回転しながら弧を描き、地面に突き刺さった。
呆然とするソディアを一瞥すると、ユーリは剣をおさめた。
「半端な覚悟しかねぇ奴に命やるわけにはいかねぇんだよ」
ソディアはぐっと唇をかんだ。
言い返したいことは山ほどある。けれど、言葉が出てこなかった。
ユーリはそんなソディアを見ぬまま、その場を後にした。
ユーリ・ローウェルがキュモールを殺して逃走
その知らせは、その日のうちにフレンに届けられた。
初めは信じなかったフレンだったが、キュモールの体に残された迷いない太刀筋と、当時警備をしていた騎士たちの証言から、それを真実と認めざるを得なかった。
フレンはユーリの消息を追ったが、その行方をつかむことはできなかった…。
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「もう、今度はあたしがやるわ!」
そう言ったリタの行動は早かった。
銃口を自分に向けたかと思うと、皆が止めるよりも早く引き金を引いた。
エステルのときと同じく、もうもうとした煙がリタを包む。
「やったな」
「えぇ。リタならやると思ったわ」
「どうなるんだろうね」
「リタっちだものねぇ…」
「え?ええ?」
ひとり付いていけてないエステルを置いて、皆は煙が晴れるのを見守った。
しかし、出てきたのはフードをかぶった怪しげな人物。
その人物はいらだたしげに地団太を踏むと、すさまじい勢いでカロルに詰め寄った。
「このクソガキ!あたしの研究の邪魔すんじゃないわよ!」
「クソガキって…」
「今のあたしにとって、あんたはクソガキ以外の何物でもないわよ!!」
とりあえず、この状況がどのようなものであるか、このリタには分かっているらしい。
そして、わかっていてなお、このような言動をとるのはリタらしいと言える。
「いい!?あたしは今ね、やっとの第五エネルギー生命体の存在の手掛かりをつかんだのよ!これがどれだけのものか今のあんたに分かる!?」
「ちょ…っ…くるし」
がくがくと首を絞められたまま揺さぶられ、カロルが白目をむく。
「おーい、リタ。カロルが死ぬぞー」
ユーリがさしてあわてた様子もなく声をかける。
が、その声はリタには届いていない。
結局、カロルの窮地を救ったのはその場にいる人物でなく、3分という時間。
再び煙とともにリタの姿は消え、いつものリタが姿を現した。
しかし、彼女はぶるぶるとこぶしを震わせている。
「すごいわ。さすが未来のあたし!この発見を今に生かせば……」
ぶつぶつと笑いをにじませながら一人で話す。
かなり不気味。
だが、だれもそれを指摘できない。
しばらく、ぶつぶつとリタの声のみが響いていた。
「じゃじゃん」
「なに、それ」
リタが自信満々に出してきたのは、何やら筒状のもの。
武器のようにもみえるが・・・。
「これはね、精霊魔術の偉大なる第一歩よ!四大精霊の力を絶妙な配分で・・・」
「あー、わりぃけど完結に頼む」
リタの講義が始まる前に、ユーリがあっさりと白旗を振る。
それについてはいつものことなのでリタも怒りはしない。
「要は、ストップフロウの改良版。10年前後時をさかのぼれるってわけ」
「へぇ!すごい!!」
カロルが瞳を輝かせる。
しかし、リタは少し渋い顔。
「でも、まだまだ改良の余地がありまくり。対象は人間一人に限られるし、時間は3分。この術式を受けた人間は10年後もしくは前の人間と入れ替わってここに姿を現すわ。」
「はいはい!僕やってみたい!」
カロルが勢いよく手を挙げる。
周りの人間は10年後の人物を見ることができ、本人は十年後の世界を体験できるわけだ。
とても魅力的だとは思う。…三分だが。
リタはその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑った。
「いいわよ。じゃ、がきんちょ。そこに立って。」
「うん!」
生き生きとしている二人とは対照的に、ユーリは冷ややかな目でそれを見ている。
「…要するに実験台だな」
「よいのではない?二人とも楽しそうだわ」
「そういや、おっさん。珍しく静かだな。真っ先に興味示すかと思えば」
「残念だけど、過去にも未来にも興味はないのよね~」
「おっさんの場合は10年後は怪しいもんな」
「うわっひどっ!おっさん傷ついちゃう」
三人が遠巻きに見ながらそう話している間に、リタはバズーカのようなものをカロルに向けた。
「じゃ、行くわよ。動かないで」
「う…うん」
カロルがごくりと息をのむ。
ボン
大きな音とともに放たれた術式。
それは、カロルに当たるかと思いきや…
「わぁ!」
「みなさん、お待たせしまし…」
「エステル!!」
エステルに命中した。
もうもうと立ち込める煙。
大きな音とともに飛んできた術式を、うっかりカロルがよけてしまったのが原因だ。
そして、扉を背にしてそんなことをしていたもだから、ちょうど運悪く扉を開けて入ってきたエステルに当たってしまった。
リタの目がみるみる吊り上っていく。
「あ~ん~た~ね~!」
「ごごご、ごめんっ!わざとじゃないんだ!」
弁解する声はリタには届かず、カロルは首を締めあげられる。
ユーリはその光景を見てため息をつくと、煙に包まれたエステルに声をかけた。
「いきてるかー?」
「…その声、ユーリですか?」
帰ってきた声はいつものエステルのものではない。
声質が変わったわけではないため、本人なのは間違いなさそうだが…
ユーリはジュディスとレイヴンと顔を見合わせる。
どうやら、本当に術式は成功のようだ。
彼らは静かに煙がはれるのを待った。
しかし、彼らに訪れたのは計り知れないほどの驚き。
「ぁああああ!?」
初めに叫んだのはカロルだったか、リタだったか。
ジュディスはまぁ、と口元を押さえ、レイブンは大口を開けたまま固まっている。
ユーリも目を見開いたまま固まっていた。
一人、エステルだけが目をきょとんとさせ、不思議そうに首をかしげた。
「みんなそろってどうしたんですか?あら?でも、みんな年が若いような…」
ふわりと広がったドレス。
まとめられた長い髪。
それだけであったならば、10年後のエステルらしい…という感想だけで終わっただろう。
しかし、問題はそこではない。
細身の彼女にしては大きく目立ったおなか。
それは即ち…
「「誰の子!?」」
リタとレイヴンの声が奇麗にハモる。
「え?え?」
しかし、そこはエステル。
状況がまったくつかめていないために、詰め寄るリタとレイヴンに答えることもできない。
「いいから、答えなさい!」
「リタ、なんだか怖いです。そえに、リタには一番にお教えしましたよ?」
「とにかく早く!」
もう時間がない。
焦るリタとは裏腹に、エステルはゆったりだ。
「ですから、これは私と……」
ごくり、と息をのむ。
しかし、その答えは聞くことはできず…
ふたたびエステルは煙に包まれた。
「あら?わたし…どうしたんでしょう」
帰ってきたのは不思議そうな顔のいつものエステル。
「嬢ちゃん。向こうでなんか見なかった!?」
「向こうって?」
「今行ってたでしょ!?」
「あぁ、入ったとたん誰もいらっしゃらないので、どうしてだろうと思ってました」
でも、みんなやっぱりいたんですね。どこに隠れてたんです?
エステルがそう問うが、誰もが全身から力が抜け、答えることができない。
不思議そうなエステルを残して、皆ぐったりとため息をつく。
もう一度使ってみたい。
しかし、向こうが身重なら、おいそれと使うわけにもいかない。
もやもやした気持ち悪さだけが残った。
すべては未来のお楽しみ。
「なに、それ」
リタが自信満々に出してきたのは、何やら筒状のもの。
武器のようにもみえるが・・・。
「これはね、精霊魔術の偉大なる第一歩よ!四大精霊の力を絶妙な配分で・・・」
「あー、わりぃけど完結に頼む」
リタの講義が始まる前に、ユーリがあっさりと白旗を振る。
それについてはいつものことなのでリタも怒りはしない。
「要は、ストップフロウの改良版。10年前後時をさかのぼれるってわけ」
「へぇ!すごい!!」
カロルが瞳を輝かせる。
しかし、リタは少し渋い顔。
「でも、まだまだ改良の余地がありまくり。対象は人間一人に限られるし、時間は3分。この術式を受けた人間は10年後もしくは前の人間と入れ替わってここに姿を現すわ。」
「はいはい!僕やってみたい!」
カロルが勢いよく手を挙げる。
周りの人間は10年後の人物を見ることができ、本人は十年後の世界を体験できるわけだ。
とても魅力的だとは思う。…三分だが。
リタはその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑った。
「いいわよ。じゃ、がきんちょ。そこに立って。」
「うん!」
生き生きとしている二人とは対照的に、ユーリは冷ややかな目でそれを見ている。
「…要するに実験台だな」
「よいのではない?二人とも楽しそうだわ」
「そういや、おっさん。珍しく静かだな。真っ先に興味示すかと思えば」
「残念だけど、過去にも未来にも興味はないのよね~」
「おっさんの場合は10年後は怪しいもんな」
「うわっひどっ!おっさん傷ついちゃう」
三人が遠巻きに見ながらそう話している間に、リタはバズーカのようなものをカロルに向けた。
「じゃ、行くわよ。動かないで」
「う…うん」
カロルがごくりと息をのむ。
ボン
大きな音とともに放たれた術式。
それは、カロルに当たるかと思いきや…
「わぁ!」
「みなさん、お待たせしまし…」
「エステル!!」
エステルに命中した。
もうもうと立ち込める煙。
大きな音とともに飛んできた術式を、うっかりカロルがよけてしまったのが原因だ。
そして、扉を背にしてそんなことをしていたもだから、ちょうど運悪く扉を開けて入ってきたエステルに当たってしまった。
リタの目がみるみる吊り上っていく。
「あ~ん~た~ね~!」
「ごごご、ごめんっ!わざとじゃないんだ!」
弁解する声はリタには届かず、カロルは首を締めあげられる。
ユーリはその光景を見てため息をつくと、煙に包まれたエステルに声をかけた。
「いきてるかー?」
「…その声、ユーリですか?」
帰ってきた声はいつものエステルのものではない。
声質が変わったわけではないため、本人なのは間違いなさそうだが…
ユーリはジュディスとレイヴンと顔を見合わせる。
どうやら、本当に術式は成功のようだ。
彼らは静かに煙がはれるのを待った。
しかし、彼らに訪れたのは計り知れないほどの驚き。
「ぁああああ!?」
初めに叫んだのはカロルだったか、リタだったか。
ジュディスはまぁ、と口元を押さえ、レイブンは大口を開けたまま固まっている。
ユーリも目を見開いたまま固まっていた。
一人、エステルだけが目をきょとんとさせ、不思議そうに首をかしげた。
「みんなそろってどうしたんですか?あら?でも、みんな年が若いような…」
ふわりと広がったドレス。
まとめられた長い髪。
それだけであったならば、10年後のエステルらしい…という感想だけで終わっただろう。
しかし、問題はそこではない。
細身の彼女にしては大きく目立ったおなか。
それは即ち…
「「誰の子!?」」
リタとレイヴンの声が奇麗にハモる。
「え?え?」
しかし、そこはエステル。
状況がまったくつかめていないために、詰め寄るリタとレイヴンに答えることもできない。
「いいから、答えなさい!」
「リタ、なんだか怖いです。そえに、リタには一番にお教えしましたよ?」
「とにかく早く!」
もう時間がない。
焦るリタとは裏腹に、エステルはゆったりだ。
「ですから、これは私と……」
ごくり、と息をのむ。
しかし、その答えは聞くことはできず…
ふたたびエステルは煙に包まれた。
「あら?わたし…どうしたんでしょう」
帰ってきたのは不思議そうな顔のいつものエステル。
「嬢ちゃん。向こうでなんか見なかった!?」
「向こうって?」
「今行ってたでしょ!?」
「あぁ、入ったとたん誰もいらっしゃらないので、どうしてだろうと思ってました」
でも、みんなやっぱりいたんですね。どこに隠れてたんです?
エステルがそう問うが、誰もが全身から力が抜け、答えることができない。
不思議そうなエステルを残して、皆ぐったりとため息をつく。
もう一度使ってみたい。
しかし、向こうが身重なら、おいそれと使うわけにもいかない。
もやもやした気持ち悪さだけが残った。
すべては未来のお楽しみ。
実はヴェスペリアは別の携帯サイトがあります。
内容は同じなので、必要ないかとも思いましたが、一応リンクはってます。
からふるぴーまん(携帯)
内容はヴェスペリアのみです。
アビスの小説は向こうにはありません。
ま、このブログも携帯から見れるのですが、ヴェスペリア目当てで来られてる方がいましたら、多少はあちらのほうが見やすいかと。
よろしければどうぞ。
内容は同じなので、必要ないかとも思いましたが、一応リンクはってます。
からふるぴーまん(携帯)
内容はヴェスペリアのみです。
アビスの小説は向こうにはありません。
ま、このブログも携帯から見れるのですが、ヴェスペリア目当てで来られてる方がいましたら、多少はあちらのほうが見やすいかと。
よろしければどうぞ。
突然の騎士団の出現。
ここが帝国領内の普通の市街ならば、騒ぎが収まるのだろうが、ここはノードポリカ。ギルドの街だ。
住むのは騎士団の人間を忌々しいと思う人間ばかりだ。
ここにいるフレンの出現は、当然ながら火に油を注ぐ結果となった。
「帝国の犬が何の用だ!」
「てめぇに用はねぇ!すっこんでろ!!」
怒号が飛び交う。
フレンがここで引き下がってくれるような人間ならまだよかったのだろうが、彼はそうではなかった。
自分の正義を信じて悪には屈しない。
彼の副官いわく、『騎士の鏡』だ。
当然、フレンはどんな罵倒にもたじろぐことなく、そこに凛と立っていた。
ユーリは頭を抱えたくなる。
だが、クリントに剣を突き付けて人質としている最中。ここで脱力するわけにはいかなかった。
…けど、あいつなんでこんなとこに来たんだ?
フレンはあの時シュヴァーンの命でキュモールを追ったはずだ。
その彼がなぜこんなところにいるのかが分からない。
気になるのは山々だが、今はこの場をなんとかするのが先決だ。
ちらりとベリウスに目をやると、彼女は分かっている、と言うようにうなづいた。
「騎士団の者よ。ここはギルドの街。ギルドによって作られ、ギルドによって守られる。ここで起きたいかなる争いもすべてはギルドによって対処する。そなたらの介入は無用じゃ」
丁寧な物言いをしてはいるが、その言葉は完全なる拒絶。
話し合いの余地などは全くない。
しかし、フレンも引き下がらなかった。
「残念ながらこちらにも理由はある。私は、国家反逆者を追ってここへ来た。今回の事件はその人物が誘発し、ギルド同士の抗争を呷った可能性が高い。国家反逆者の追撃は我ら騎士団の役目。いかに立ち去れと言われようと、応じることはできない!」
国家反逆者?
ユーリはフレンの言葉に息をのんだ。
現時点でそこまでの罪が確定しそうな人物…そして、フレンの隊長への急な昇進。
それを考えると…ある人物が降格し、その欠員をフレンが補うことになったと考えるのが妥当。
となれば反逆者は……
「キュモールか」
苦々しげに言い放つ。
その言葉はフレンには届かなかったようだ。
彼はギルドの面々とにらみ合っている。
ユーリは刀を突き付けたままクリントに話しかける。
「おい、答えろ。街に火を放ち、モンスターどもを逃がした下衆は貴様らか?」
「……」
「舐めるな!俺たちは魔物を狩るのにそんな真似はしねぇ!」
ユーリの口元がかすかに上がり、笑みを作りだす。
わざと挑発的な言葉を吐けば、クリントは答えないにしてもだれかが答えるだろうと思っていた。
そうしたら案の定。ティソンが望みの言葉をくれる。
そして、その言葉に連動して魔狩りの剣のメンバーが雄叫びをあげる。
これ以上問う必要はない。
ならば、それを行った犯人はどこかにいるはず。
そして、この争いをどこかで見ているはずだ。
ユーリは注意深くあたりを見回す。
……あれか
魔狩りの剣のメンバーの一人。
メンバーになじみ切れず、一人わずかにだが離れたところに立っている。
しかも、先ほどからフレンのほうをちらちらと見ていた。
闘技場の中とあって、出入り口は今フレンのいるところのみ。
彼があの場から退かねば出入り口を通ることはかなわない。
ひとまず、逃げられる心配はねぇな。
ユーリは再度あたりを見回す。
しかし、その人物以外にめぼしい奴は見当たらない。
貴族であるキュモールは現場で自ら先陣たって行動する性質ではない。
今回も自分は安全なところで報告を待っているに違いない。
全く忌々しい。
わかっていても行動できないこの状況がもどかしい。
そんなユーリの心情を察してか、こんな状況下にもかかわらず、ベリウスがくすりと笑った。
「ユーリ、行ってくるがよい」
「ベリウス?」
「これしきの事、わらわとて対処ができる。そなたは、そなたの務めを果たすがよい」
「けど…!」
「のう、クリントよ」
ベリウスは膝をついたままのクリントに視線をやる。
「このままでは、そなたらは復讐のためなら街に火を放つ下郎ということになる。人々にとっては貴様らも魔物も変わらぬ…ということになるぞ?」
魔物と同じと評され、魔狩りの剣の者たちは気色ばむ。
この世で最も魔物を憎む彼らが、それと同じなどと言われては黙ってはいない。
クリントはようやく重たい口を開いた。
「他人の評価など関係ない。だが、そうまで言われて黙っているほど腑抜けではない」
クリントは首筋にあてられた剣先に構わず立ち上がる。
ユーリもその動きに合わせておとなしく剣をひいた。
決して友好とは言えない雰囲気ではあるが、これ以上争うことはないだろう。
ユーリは今度の目標を怪しげな動きをしていた男に定める。
ゆったりと歩き男に近寄っていく。
抜き身の刀を持ったまま近寄ってくるユーリを見て、男はたじろいだ。
逃げようと身を返すが、すでに遅い。
ひたりと剣先が突き付けられる。
「言え」
「ひっ」
「あいつはどこだ?」
「あ………あ……」
仲間がやられていると思ったのか、魔狩りの剣の幾人かがユーリを止めようと動くが、それはクリントによって制された。
そして、改めてみる。そして悟った。
だれもその人間を知らないことに。
新しくギルドに入った人間などいない。たとえいたとしても、この作戦に新人を参加させるわけがない。
ならば、答えは一つ。
奴はまわし者だ。
「さぁ、言え」
ユーリの言葉はどこまでも冷たい。
脅すように刀の切っ先が皮膚を切り裂く。
すると、悲鳴を上げるように男が叫んだ。
「た、た、高台の上!」
「ユーリ!待て!!」
フレンの制止を振り切り、ユーリは駆ける。
ユーリを止めようと伸ばされた手はむなしく空をきった。
走り去る親友の後姿を見て、フレンはぐっとこぶしを握る。
「ユーリ…君は……」
一体何をしようとしているんだ?
親友には伝わらない…伝えられない不安。
彼のことを信じているのに、状況は彼を疑うように仕向けてくる。
「隊長。追いますか?」
「……頼む、ソディア」
「はい」
フレンの代わりにソディアがユーリの後を追う。
フレンはぐっと何かをこらえるように唇をかみしめた。
ここが帝国領内の普通の市街ならば、騒ぎが収まるのだろうが、ここはノードポリカ。ギルドの街だ。
住むのは騎士団の人間を忌々しいと思う人間ばかりだ。
ここにいるフレンの出現は、当然ながら火に油を注ぐ結果となった。
「帝国の犬が何の用だ!」
「てめぇに用はねぇ!すっこんでろ!!」
怒号が飛び交う。
フレンがここで引き下がってくれるような人間ならまだよかったのだろうが、彼はそうではなかった。
自分の正義を信じて悪には屈しない。
彼の副官いわく、『騎士の鏡』だ。
当然、フレンはどんな罵倒にもたじろぐことなく、そこに凛と立っていた。
ユーリは頭を抱えたくなる。
だが、クリントに剣を突き付けて人質としている最中。ここで脱力するわけにはいかなかった。
…けど、あいつなんでこんなとこに来たんだ?
フレンはあの時シュヴァーンの命でキュモールを追ったはずだ。
その彼がなぜこんなところにいるのかが分からない。
気になるのは山々だが、今はこの場をなんとかするのが先決だ。
ちらりとベリウスに目をやると、彼女は分かっている、と言うようにうなづいた。
「騎士団の者よ。ここはギルドの街。ギルドによって作られ、ギルドによって守られる。ここで起きたいかなる争いもすべてはギルドによって対処する。そなたらの介入は無用じゃ」
丁寧な物言いをしてはいるが、その言葉は完全なる拒絶。
話し合いの余地などは全くない。
しかし、フレンも引き下がらなかった。
「残念ながらこちらにも理由はある。私は、国家反逆者を追ってここへ来た。今回の事件はその人物が誘発し、ギルド同士の抗争を呷った可能性が高い。国家反逆者の追撃は我ら騎士団の役目。いかに立ち去れと言われようと、応じることはできない!」
国家反逆者?
ユーリはフレンの言葉に息をのんだ。
現時点でそこまでの罪が確定しそうな人物…そして、フレンの隊長への急な昇進。
それを考えると…ある人物が降格し、その欠員をフレンが補うことになったと考えるのが妥当。
となれば反逆者は……
「キュモールか」
苦々しげに言い放つ。
その言葉はフレンには届かなかったようだ。
彼はギルドの面々とにらみ合っている。
ユーリは刀を突き付けたままクリントに話しかける。
「おい、答えろ。街に火を放ち、モンスターどもを逃がした下衆は貴様らか?」
「……」
「舐めるな!俺たちは魔物を狩るのにそんな真似はしねぇ!」
ユーリの口元がかすかに上がり、笑みを作りだす。
わざと挑発的な言葉を吐けば、クリントは答えないにしてもだれかが答えるだろうと思っていた。
そうしたら案の定。ティソンが望みの言葉をくれる。
そして、その言葉に連動して魔狩りの剣のメンバーが雄叫びをあげる。
これ以上問う必要はない。
ならば、それを行った犯人はどこかにいるはず。
そして、この争いをどこかで見ているはずだ。
ユーリは注意深くあたりを見回す。
……あれか
魔狩りの剣のメンバーの一人。
メンバーになじみ切れず、一人わずかにだが離れたところに立っている。
しかも、先ほどからフレンのほうをちらちらと見ていた。
闘技場の中とあって、出入り口は今フレンのいるところのみ。
彼があの場から退かねば出入り口を通ることはかなわない。
ひとまず、逃げられる心配はねぇな。
ユーリは再度あたりを見回す。
しかし、その人物以外にめぼしい奴は見当たらない。
貴族であるキュモールは現場で自ら先陣たって行動する性質ではない。
今回も自分は安全なところで報告を待っているに違いない。
全く忌々しい。
わかっていても行動できないこの状況がもどかしい。
そんなユーリの心情を察してか、こんな状況下にもかかわらず、ベリウスがくすりと笑った。
「ユーリ、行ってくるがよい」
「ベリウス?」
「これしきの事、わらわとて対処ができる。そなたは、そなたの務めを果たすがよい」
「けど…!」
「のう、クリントよ」
ベリウスは膝をついたままのクリントに視線をやる。
「このままでは、そなたらは復讐のためなら街に火を放つ下郎ということになる。人々にとっては貴様らも魔物も変わらぬ…ということになるぞ?」
魔物と同じと評され、魔狩りの剣の者たちは気色ばむ。
この世で最も魔物を憎む彼らが、それと同じなどと言われては黙ってはいない。
クリントはようやく重たい口を開いた。
「他人の評価など関係ない。だが、そうまで言われて黙っているほど腑抜けではない」
クリントは首筋にあてられた剣先に構わず立ち上がる。
ユーリもその動きに合わせておとなしく剣をひいた。
決して友好とは言えない雰囲気ではあるが、これ以上争うことはないだろう。
ユーリは今度の目標を怪しげな動きをしていた男に定める。
ゆったりと歩き男に近寄っていく。
抜き身の刀を持ったまま近寄ってくるユーリを見て、男はたじろいだ。
逃げようと身を返すが、すでに遅い。
ひたりと剣先が突き付けられる。
「言え」
「ひっ」
「あいつはどこだ?」
「あ………あ……」
仲間がやられていると思ったのか、魔狩りの剣の幾人かがユーリを止めようと動くが、それはクリントによって制された。
そして、改めてみる。そして悟った。
だれもその人間を知らないことに。
新しくギルドに入った人間などいない。たとえいたとしても、この作戦に新人を参加させるわけがない。
ならば、答えは一つ。
奴はまわし者だ。
「さぁ、言え」
ユーリの言葉はどこまでも冷たい。
脅すように刀の切っ先が皮膚を切り裂く。
すると、悲鳴を上げるように男が叫んだ。
「た、た、高台の上!」
「ユーリ!待て!!」
フレンの制止を振り切り、ユーリは駆ける。
ユーリを止めようと伸ばされた手はむなしく空をきった。
走り去る親友の後姿を見て、フレンはぐっとこぶしを握る。
「ユーリ…君は……」
一体何をしようとしているんだ?
親友には伝わらない…伝えられない不安。
彼のことを信じているのに、状況は彼を疑うように仕向けてくる。
「隊長。追いますか?」
「……頼む、ソディア」
「はい」
フレンの代わりにソディアがユーリの後を追う。
フレンはぐっと何かをこらえるように唇をかみしめた。