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夜半。
静まり返った城の中に、足音が響く。
アレクセイだ。
親衛隊の一人もつけず、一人人目を避けるように歩いている。
…こんな時間にどこへ…
たまたまアレクセイに用があって彼の執務室を訪ねようとしたのだが、ちょうどその時、部屋からアレクセイが出てきた。
城内というのに武装した姿で歩く彼の姿は異様で、シュヴァーンは思わず身を隠した。
そして、歩んでいく彼の後を追いかけたのだ。
気配を殺して彼の後を追う。
アレクセイのことだ。自分の気配などすでに感じ取っているかと思ったが、彼は一度も振り向くことなく歩く。
そして、城の最奥。謁見の間へと辿り着いた。
今は座るもののない椅子が真ん中にぽつんと置かれている。
こんなところに、何の用があるというのか。
アレクセイは迷う様子もなく、王の椅子の後ろに回ると、壁に手をかざした。
すると、壁の一部が動き出し、奥へ向かう通路が姿を見せた。
どうやら、その壁が扉となっていたようだ。
その奥へとアレクセイは足を進めていく。
しばらく間を開けてから、シュヴァーンもそれに続いた。
「ここは…」
帝都の象徴、御剣の階梯。
上を見上げれば、アレクセイが上へと登って行くのが見えた。
結界魔導器の薄明かりに照らされ、薄ぼんやりとした道を息一つ乱さず淡々と歩く。
やがて、頂上の広場へとたどり着いた時、初めてアレクセイが言葉を発した。
「…わざわざこんな真似をしてまで何の用だ」
誰に問いかけているのか。やはり、自分の気配に気が付いていたのだろうか。
出ていくべきか悩んでいると、アレクセイのほかにもう二つ、人の気配があるのに気づいた。
「ま、そろそろけじめつけようと思ってな」
聞き覚えのある声。
その声を聞いて、シュヴァーンの体が固まる。
息を飲んで見つめれば、想像した通りの人物が現れた。
ユーリ・ローウェル
後ろにはナイレンの姿もある。
「自分をわざわざ殺してまでつけたいけじめ…か。ご苦労なことだ」
「その原因を作った人間が言う言葉かよ」
「ふ…それもそうか」
「否定しねえんだな」
「私はすべてを背負うつもりでここまで歩んできた。今までも…そしてこれからもだ。今更逃げはしない」
「止まりもしないってか?」
「ああ」
すべてを肯定し、アレクセイは剣を抜く。
「私の覇道の前に立ちはだかるものはすべて排除する。それが貴様でもだ。ユーリ・ローウェル」
「やっぱこうなるな」
応じるようにユーリもすらりと剣を抜いた。だが、それは宙の戎典ではなく、細身の彼が愛用する刀であった。
「フェドロックはいいのか?」
「俺は見届け人だ。手出す気はないよ」
「そういうことだ」
ニヤリと笑うユーリ。その目には闘争心がすでに宿っている。
獲物を前にした獣のように輝いていた。
それにつられるように、アレクセイの唇もまた弧を描く。
「じゃぁ、やろうぜ」
「ああ」
ギィン
刃が交差し、空気を震わす。
刃が防がれるとすぐに二人は互いに距離をとる。だが、止まりはしない。
すぐにまた距離を詰める。
だが、アレクセイのとった構えを見て、再び距離をとるべくバックステップを踏んだ。
「光竜槍」
突き出された剣の直撃は免れたものの、次いで襲いかかった光の槍は避けられなかった。
とっさに刀で身を守るが、相手はアレクセイ。防御をとってもダメージは大きい。
それに歯を食いしばって耐えるが、不意に足元が淡く光る。
しまった、と思うがすでに遅い。
ユーリの足元から竜が立ち昇り、ユーリの体は空に吹き飛ばされることとなった。
飛ばされつつも、ユーリは空中で体制を立て直すと、刀を地面に叩きつけるようにして地面に着地した。
それによって生じた衝撃派がアレクセイを襲う。
術を発動した後で動けぬこともあり、衝撃波をまともに受けたアレクセイは、腕を盾にして身を守る。
その好機を逃さぬユーリではない。
アレクセイの懐に飛び込むと、胴に拳を叩きこむ。
思わず前のめりになるアレクセイ。ユーリは攻撃の手を緩めることはない。
肩が当たるほどにアレクセイに接近すると、闘気をぶつけた。
「戦迅…狼破ァッ」
放たれた狼がアレクセイを吹き飛ばす。思わず膝をついたアレクセイ。
当然、追撃が来るはず…と身構えたが、それは訪れなかった。
「もう終わりか?」
黒髪を乱しながら、ユーリは楽しげに笑う。
憎らしいくらいに。
アレクセイはゆっくり立ち上がると、それに笑い返す。
「まさか…」
「これからだ」
激しく打ち合う二人を、シュヴァーンは呆然と見つめた。
アレクセイと互角に立ち会う人間なんて初めて見た。
先日、自分が隊長主席に就任した際、彼と手合わせを行ったが、3分ともたなかった。
あの男こそ最強の騎士。あの男に並ぶものなどいはしない。そう信じて疑わなかった。
だが、それが今崩れようとしている。
シュヴァーンは気配を消すのも忘れ、呆然と戦いに見入った。
シュヴァーンの存在に気付いたナイレンがちらりとみたが、彼も何も言わず、二人の勝負の行方を見守った。
さすがの二人も息を切らし、全身に致命傷ではないにしても、いくつもの傷が刻まれていた。
「さて、と……そろそろ決着つけるか?」
「もう体力切れかね?」
「おまえもだろ。強がんなよ」
しびれている手に力を込め、剣を握りなおす。
これで最後となるだろう。
「自らを愚物と知るがいい!」
「飛ばしていくぜ!」
互いの闘気があたりを赤く染めるほどに濃く、強く放たれる。
「舞い飛べ…!」
「お終いにしようぜ!」
闘気をまとった体が高速で地をかける。
アレクセイの手を離れた剣が、舞うようにユーリに向かうが、彼の高速の剣にすべて叩き落とされた。
アレクセイの目が驚愕に見開かれる。
ユーリの姿が間近に迫り、終わりを悟った。
「漸毅狼影陣!」
ユーリの剣を受けた剣が砕け散る。
騎士団で最強とされた男はこの日初めて、他者の前に倒れた。
ユーリ・ローウェルの代わりとして騎士団の隊長になったのは、貴族出身のキュモールと言う男だった。
初めは、アレクセイはなぜこんな才能もない男を採用したのかと疑問におもったが、やがてそれを自然と理解した。
キュモールは、ほとんど平民で構成されていたユーリの隊を問答無用で解散させると、自分の采配で隊を編成した。
所属するものは皆貴族の子弟。
プライドだけは高い、実戦経験のない隊。
役に立ちはしないが、貴族とその他と言う線引きができていた。
これこそがアレクセイの狙いであったのだろう。
彼は騎士団の膿を集めるために、キュモールを隊長としたのだ。
不要となれば隊ごとすぐに処分できるように。
頭が切れるのも、カリスマ性をもつのもかつてのアレクセイと変わらない。
だが、唯一変わったのはこの残虐性であった。
目的のためならば何を切り捨てても構わないという姿勢。
それが、シュヴァーンには眩しくもあり、恐ろしくもあった。
それほどにも心血を注げることがあるのは幸せなことであるから。
「よぉ」
廊下で声をかけられ、振り向く。
その人物を見た瞬間、頭を下げた。
「お久しぶりです、フェドロック隊長」
「よせ。今はお前の方が立場が上だろうが。なぁ、隊長主席殿」
異例の出世として、隊長主席に就任してからあちこちで囁かれた陰口。
正直うんざりしていたが、この男の言葉からは自分に対する負の感情だとかは感じられない。
単純に事実を言ったという感じだ。…面白がってはいるようだが。
「何かあったのですか?」
「あ?ちょっと野暮用だ」
あの事件後、被害にあっていたシゾンタニアも元の平穏を取り戻し、徐々に人も戻ってきているという。
親衛隊の人間が魔導器を動かした犯人の手掛かりを得るためと称して宙の戎典を捜索したが、宙の戎典はおろか、ユーリの遺体も見つからなかった。
その報告を聞いてから、アレクセイは宙の戎典の捜索を断念し、自らそれを作り出すことに力を入れ始めている。
あれだけ手に入れたがっていたのに、なぜあっさりと手をひいたのか。
それに、目の前のナイレンに対してもシュヴァーンは疑問を感じていた。
「………どうしてあなたは、あの人を探していないのですか?」
まさか、自分がそれを口にするとはおもわなかったのだろう。ナイレンの目が大きく見開かれる。
だがそれも一瞬のことで、次の瞬間にはいつもの飄々としたいつもの表情に戻っていた。
「ま、必要ねぇからな」
「それは、どういう……」
ナイレンは笑う。
「ま、今に分かる」
今に分かる…それは、近いうちに何かがおこるということだろうか。
ナイレンが何かを知っているのは確か。おそらく、アレクセイにとっては邪魔なことだろう。
だが、不思議とこのことをアレクセイに報告する気にはなれなかった。
もしかしたら、自分もその何かを無意識に望んでいたのかもしれない。
「で?獲物はこの先か?」
ユーリが示すのは濃いエアルの流れてくる通路。
随分と奥へ進んできた。ここがおそらく、この遺跡の中心部だろう。
ならば、目当てのものもこの近くのはず。
予想を裏付けるようにエアルの量も一段と濃い。
そのはずだ、とナイレンは頷いた。
それを聞くと、ユーリは剣を片手にその方向へと足をむけた。
自分が投げた斧には目もくれない。
まさか、置いていくのだろうか。エルヴィンは思わずこえをかけた。
「ローウェル隊長。あれは、置いていかれるのですか?」
「ん?ああ、欲しいんならやるぞ」
「………は?」
上官に対して、あんまりな返答であったと思う。
だが、考えよりも先に声が出てしまった。
なぜなら、あの斧はただで他人にあげてしまえるようなものではないのだ。
バハムートティア
市場に出回ることはほとんどなく、あったとしても高額で、一騎士に過ぎない自分が手に入れることは到底叶わないあこがれの斧。
それを、簡単に……
呆然とするエルヴィンの肩をナイレンが叩く。
「いらねぇって言ってんだ、もらっとけ」
「ですが…」
「あいつは斧も使うが、本業は剣士だ。それにあぁ言うってことは、もうスキルもマスターしてんだろうよ」
ユーリの方を見れば、にやりと笑っている。
ナイレンの言うことはあっているようだ。
だからと言って、それならば、と簡単に受け取ることなんてできるはずがない。
悩むエルヴィンに揶揄するような声がかかる。
「いらねぇんなら、そこに置いてくだけだぜ」
「………」
こうして、斧使いの憧れバハムートティアはエルヴィンの手に収まった。
「これは……」
部屋に入ったとたん見えたのは巨大な魔導器。
それを見上げたフレンは無意識に声を上げた。その目には恐れが宿っている。
それは皆同じようで、フレンと同じように魔導器を見上げて息を飲んだ。
巨大な魔導器は異常な量のエアルを吸い込んでいる。あたりは赤く染まり、常ならぬ様相。
さながら戦場か地獄絵図のようだ。
「どうして…」
「だれがこんなこと…」
ヒスカとシャスティルが呆然とつぶやく。
皆、同じ思いで不気味に作動し続ける魔導器を見上げていた。
だが、レイヴンは違った思いでそれを見上げていた。
なぜなら、自分はこれを行った…いや、行わせた人物を知っているから。
大将。あんたは、この世界を……
レイヴンの考えを断ち切るように、あたりに爆発音が響く。
「ナイレン!」
「まだ何もしてねぇよ!」
魔導器を止める手立てとしてリタから譲り受けた魔導器は、まだ自分の手の中だ。
これは自分たちが引き起こしたものではない。
見上げれば、巨大魔導器が大きく振動しているのが目に入る。
多量なエアルに魔導器の方が耐えられなくなったのだ。
……このタイミングでかよっ
ユーリはナイレンに目配せをすると、すらりと剣を抜き、魔導器のほうへ足を向けた。
その剣を目にしたレイヴンは、思わず息を飲む。
宙の戎典…!
それは先の大戦で失われ、アレクセイが血眼になって探させているもの。
なぜ、それをユーリが手にしているのか。
疑問が口をついて出そうになるのを、ぐっとこらえる。
『レイヴン』がそれを口にしてはいけない。
『レイヴン』はギルドの人間。ギルドを監視するために、ギルドに溶け込むようにつくられたもの。
その『レイヴン』が宙の戎典など知っているはずはない。
だが、騎士団の『シュヴァーン』は知っている。
『シュヴァーン』ならば、ユーリの手にある宙の戎典を回収しなければならない。
だが、ここにいるのは『シュヴァーン』ではなく、『レイヴン』だ。
共にアレクセイから命じられたことであるのだが、それが今相反している。
レイヴンはきつく拳を握った。
胸に抱いたラピードが不思議そうに自分を見上げているのがわかるが、今は答えてやる余裕がない。
自分を落ち着かせるように、詰めていた息をゆっくり吐いた。
今は、レイヴンよ
そう決断して顔を上げる。
一瞬、ユーリの顔が笑ったように見えたが、それは光に覆われて見えなくなる。
ユーリを中心に展開された術式が、眩い光となってあたりを覆った。
激しく流れる空気と光とで目を開けていられず、両腕で顔を覆った。
やがて、吹き荒れていた風がやむ。
ゆっくりと目を開けば、エアルの乱れはなくなり、あたりは平穏を取り戻している。
部屋の中央には沈黙した魔導器と、唇に笑みをのせたユーリの姿。
「ローウェル隊長?」
動かないユーリを不思議に思ったフレンが、彼に近づこうと歩を進める。
だが、それはナイレンの手によって遮られた。
フレンがどうして、と言う思いを込めてナイレンを見上げるが、目に映ったのは普段の優しい彼ではなく、厳しい表情。
その時、地鳴りにも似た振動が足に伝わった。
魔導器を中心に、円形にひびが走る。
崩れる…!
「全員、退避!」
ナイレンの命令に従い、魔導器から距離をとる。
レイヴンもそれに倣って動いたが、胸騒ぎを感じて後ろを振り返った。
目に入ったのは、その場で微動にもしないユーリの姿。
その顔はなぜか笑っている。
声をかけようと口を開くが、その時、床が崩れ落ちた。
ユーリの長い髪が宙に舞い、その体が魔導器とともに落ちる。
「――――っ!」
叫ぼうとしたのは何であったか。
レイヴンの口からは、言葉にならない声しかもれず、その声すらも響き渡る轟音にかき消された。
ぽっかりと空いた巨大な穴に声をかけども、返ってくる声はなく……
やがて、ユーリ・ローウェルとされた空の棺がひとつ、土へと還された。
少部数本発行して、サイトURLをこちらにしてるのでご報告。
実はヴェスペリアは別の携帯サイトがあります。
からふるぴーまん(携帯)
内容はヴェスペリアのみです。
アビスの小説は向こうにはありません。
ま、このブログも携帯から見れるのですが、ヴェスペリア目当てで来られてる方がいましたら、多少はあちらのほうが見やすいかと。
日記とかも書いたり書かなかったりしてるので、生存確認もできるかもです。
よろしければどうぞ。
少部数本…もし、お手に取って下さった方がいましたら、ありがとうございましたv
がらがらと壁が崩れる。
そのがれきをつなぎとめるように張り巡らされた赤い糸は、人形を操る糸のように働き、やがて巨大なゴーレムを作りだした。
暗く光る赤い瞳は、さもそれが生きているかのように見え、不気味さを醸し出している。
先に戦ったときと同タイプであることから、あの赤い糸を切ってしまえば動きは止まり、ゴーレムはただの土くれに戻るだろうことは想像できたが、今度の敵は巨大すぎた。
糸を切ろうにもゴーレムの上部まで攻撃は届かず。
また、巨大な体躯が繰り出す拳は、その重量から振り下ろすだけですさまじい破壊力をもっていた。
「固まるな!」
上から繰り出される拳をすんでのところで避けつつ、ナイレンは指示を飛ばす。
一つにまとまっていては格好の的だ。
しかし、ゴーレムの攻撃を避けはしたものの、衝撃波までは避けることはできず…
ナイレンは踏みとどまったものの、女性で身軽なヒスカはそれに耐えきれなかった。
バランスを崩した彼女のもとに一本の赤い糸がゴーレムから離れ、一直線に走ってきた。
「くそっ」
とっさに彼女の手をひいて自分の背後に庇う。
だが、赤い糸は生き物のように自在に方向を変え、今度はナイレンに狙いを定めた。
避けきれない。
それが与えるであろう衝撃を覚悟する。
だが、それはナイレンの身を襲うことはなかった。
目の前を風を切って何かが通り過ぎていく。
それはナイレンに襲いかかろうとしていた赤い糸を切り裂くと、弧を描きそのままゴーレムへと向かっていく。
そして、巨大なゴーレムの上部の赤い糸をも切り裂いた。
途端、支えを失ったようにゴーレムは崩れおち、無数の瓦礫となって地に倒れた。
ゴーレムをただの土くれとなしたものはそのままの勢いで床に刺さる。
それは一本の斧だった。
それを見たナイレンの顔に笑みが上った。
「おせぇよ」
「わりぃな」
ナイレンの呟きに声が返る。
土埃の中から現れたのは、勝気な笑みを浮かべたユーリ・ローウェル。
ユーリはそのままナイレンのもとに歩んでいくと、ぱん、と手を合わせた。
それだけで、この二人が互いをどれだけ信頼しているかが伝わってくる。
その姿をラピードを胸に抱いたレイヴンがくたびれた様子で見ていた。
ゴーレムを一人であっさりと倒すユーリと、それを当然のことのように受け止めるナイレン。
信頼していると言えばそうなのだろうが…
「はちゃめちゃよね、あの二人」
「ワゥ」
自分の言葉を肯定するように答えるラピードを撫でつつ、レイヴンはため息をついた。