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ラゴウの屋敷から連れ出され、白い鎧をまとった人物と魔物(?)につれてこられたのは海を渡ってはるか南。
闘技場都市ノードポリカ。
さすがに町のすぐそばに降りるわけには行かず、すぐそばの森に降りた。
「わりぃな、助かった。俺はユーリ。あんたは?」
「ジュディスよ」
白い兜を外すと、流れ落ちる細長いもの。
そして、尖った耳。
「あんた、クリティア族か。」
「ええ。はじめまして・・・だけど、私はあなたのことをよく知ってるわ。」
「へぇ・・・どこまで?」
ユーリは、唇では笑みを浮かべながらも、冷えた目でシュディスを見る。
自分を助けたとはいえ、すぐに信じるわけにはいかない。
彼女が自分を知ってるというならなおさらだ。
そんなユーリの心に気づいたのか、ジュディスは笑う。
「そんなに怖い顔しないで。私は彼女に頼まれただけ」
「・・・彼女?」
「ベリウスよ。心配してたわ」
そう言って、ジュディスが見せたのは一つの指輪。
青い石のはめ込まれたそれは、中をのぞくと凛々の明星のしるしが刻まれていた。
そこまで確認し、ようやくユーリの瞳から剣呑さが消える。
そして、ばつがわるそうに笑みを浮かべ、右手を差し出した。
「疑って悪かった。」
「いいのよ。当然のことですもの。」
握手を交わし、今度こそ本題に入る。
「で、ベリウスがどうしたって?」
「当代殿は無茶をするから見てきてほしいって、頼まれたの」
「無茶なんかしてないけど?」
「あら、じゃぁあれはちょっと張り切りすぎたってとこかしら?」
「ま、そうだな」
悪びれもせずにやりと笑うユーリをみて、ジュディスは楽しそうに笑う。
「ま、せっかくここまで運んでもらったわけだし、顔見せに行くか」
「あら、やさしいのね」
「ここまで来て、挨拶もなしに帰るような薄情じゃねぇよ。・・・親代わりだしな」
「そう。なら行きましょうか」
本来、新月の晩にしか姿を見せないというベリウス。
新月でない今日は固く閉ざされるはずのその門は、彼のために簡単に開いた。
ユーリはよっ、と門番をしていたナッツに手を挙げる。
二人が最後に会ったのはいつだっただろうか。それでも、変わらないユーリの様子に、ナッツは目を細める。
「ベリウス様がお待ちだ」
「わかった。先に行ってくる。また後でな」
「あぁ。お前の部屋はそのままだ」
ナッツの心遣いに礼を述べつつ、ユーリはジュディスを連れて中へ足を踏み入れる。
何度も通った道。間違えなどしない。
奥の扉をくぐると、やさしい声が投げかけられた。
「ユーリ」
「ただいま、ベリウス」
近づいてきた巨体を撫で、頬を寄せる。
ユーリが何をしてきたか知っていても、彼女が拒むことはない。
いつでもこうして迎える。
たとえユーリが与えられた使命から逃れたとしても、彼女はこうして迎えるだろう。
そんな温かな絆が、そこにはあった。
だからこそ、ユーリはこの道を歩むことができるのだ。
「災難だったな、ユーリ」
「まぁな。おかげでしばらくは外歩けねぇか・・・な?」
そう声をかけるベリウスに、苦笑いを浮かべながらユーリは答える。
あの混乱に乗じて姿を消したレイブンが働いてくれていたら、おそらくは騒ぎにはなっていないだろうが、あのフレンがそれで納得するはずがない。
少なくとも、フレンに出会わないようにする必要があるだろう。
あと、エステルにもだ。
だが、置いてくることになってしまったラピードが気がかりではある。
利口な相棒であるから心配は無用だと思うが・・・。
「ならば、しばらくここに居ればいいだろう」
「でも、じっとしとくってのもな・・・」
性に合わない・・・とユーリは顔をしかめる。
その言葉に、それもそうだと、ベリウスが笑う。
もともと活発なユーリがじっと閉じこもるなど考えられない。
ならば・・・と横で話を聞いていたジュディスが一つ提案をする。
「私と一緒にヘルメス式魔道器を探さない?」
「なるほど・・・でも、それって目立たないか?」
「顔を隠せば問題ないわ」
いわく、やることは派手だがばれなきゃいいじゃない・・・とのこと。
「わかった。だけど、おそろいは勘弁しろよ?」
「あら、結構機能的なのよ、この鎧」
ほら、おかげで傷一つない肌
そう言ってみせるジュディスに、俺が肌気にしても仕方ないだろ、と返す。
そして、それならば・・・とベリウスが服を仕立てさせると言い出し・・・
結局ユーリに選択権はなくなった。
やはり、女性にはかなわないのだ。
「不安な人?」
「ええ。一人でいると、どうなってるか判るもんじゃないので」
探し人の特徴
赤い髪の毛。
剣の腕はたつが、世間知らずの人。
名前はルークというらしい。
とりあえず、世界を渡り歩く人間の多いダングレストで聞けば情報も集まりやすいのでは、というカロルの提案で、一行はダングレストに向かった。
手分けをして情報収集をしていると、カロルが情報を持ち帰ってきた。
なんでも、魔狩りの剣のメンバーから情報を得たらしい。
「なんか、ザーフィアスの西にある大きい島に赤い髪の人が出るようになったんだって」
「・・・出るようになった?」
「あそこはちょっと前まで海の下だったからじゃない?でも、本当にジェイドさんの探し人がいるなら早く行ってあげなくちゃ。だってあそこ、船からじゃ上陸できない孤島のはずだよ。」
「大変!早く行ってあげましょう、ユーリ!」
「あ・・・あぁ」
絶対に助けたい、と顔に書いてあるエステルに押され、思わず頷いてしまったユーリだったが、ふと思う。
そんなところに本当にいるのだろうか、と。
だが、ジェイドだって突然自分たちのいる船の上に現われたのだ。
出たところが運悪く孤島であったとしても否定はしきれない。
「・・・なんかやな予感がするんだよなぁ」
「どしたの、青年?」
「いや、何でもねぇよ。とりあえず、いこうぜ」
ラウライス島。
バウルで到着したときには既に日も落ちる寸前。
ルーク、と名を呼びつつ探し回ったが、姿はない。
そんなこんなしているうちに、日はくれて夜。
暗くなってしまえば、視界も悪く探せないかと、一行が野宿をするかザーフィアスに行くか考えていたころ。
「ねぇ、あれ見てよ!」
カロルの指差した先。
暗闇の中ひょこひょことゆれる赤い物体。
「・・・あれ?ちょっと違うんじゃない?がきんちょ」
「え、でも赤いよ?」
「でも・・・あれって・・・」
ひょこひょこと赤い物体はこちらに歩いてくる。
それを見ていた一行は、徐々に近づいてくる物体に唖然とした。
「やっぱり、モンスターよね」
のんびりと頬に手を当てて言うジュディス。
ユーリは、やっぱりな、というようにため息をついた。
ひょうきんな動きで二足歩行する、
赤い髪をした人のお面をかぶった
強めの人(?)型モンスター。
情報が若干かすっているだけに惜しい。
どうしよう・・・というようにカロルが後ろにいたジェイドを振り向く。
すると彼は、眼鏡をかけなおしているところだった。
そして、彼の周りに濃厚なエアルが渦巻いていくのがわかる。
それが、リタが切れて魔術を発動するときに似ていて、一行は条件反射で距離をとる。
『天光満つる所我はあり 黄泉の門開く所汝あり 出でよ神の雷 ・・・これで終わりです。インディグネイション』
夜に隕石でも落ちたんじゃないかとも思う眩すぎる光。
頭が割れそうなほどの音。
地が割れるほどの衝撃。
再び目を開けたときには、大きなクレーターと化した地面と、立ち上る煙。
それを前にして微動だにしていないジェイドの背中。
もちろん、先ほどのモンスターの姿はない。
呆然とする一行に、妙に笑顔のジェイドが囁く。
「次はありませんよ?」
がたがたと震えながら、壊れた人形のように首を振るカロル。
おっさんこわーい、と泣きまねをするレイブン。
見たことない術に瞳輝かすリタ。
服従姿勢をとるラピード。
ぽかんとしたまま、動かないエステル。
何を考えてるのか、微笑んだままのジュディス。
・・・このとき、もうギルドなんて辞めちまおうかとほんとに思った。
by ユーリ
ジェイド・カーティス。35歳男性。職業・マルクト軍大佐。
別名死霊使いとよばれ、恐れられている彼の精神を動かすことができるのは、幼馴染の皇帝と、赤いひよこ、今は亡き恩師ぐらいだろう。
しかし、その彼は今や米神を押さえ、自分の理解を超える出来事と対峙していた。
目の前にいるのは腰を抜かした少年と、その保護者?だろう青年。
後は、女性と少女×2、同じ年位の男性一人。
頭上を見上げると、鯨のようなもっさりとした生物が悠々と泳いでいる。
いや、正確には、自分が乗っているこの船が鯨に運ばれている。
自身の譜眼で辺りを見回してみるが、ここに存在しているのは音素とは似てことなる物体のようだ。
ためしに指先に軽く火をともしてみたが、うまく調節できず手先から大噴火。
(目の前の少年はそのせいで腰を抜かした)
しかし、音素と同じように利用できるようで、ちょっと術式を調整すれば今までどおり術は使えそうだ。
結論
ここは、自分の世界とは異なる世界。
信じたくはないが、別の次元であるらしい。
「・・・困りましたねぇ」
「困ってるのもびっくりしてるのも、僕のほうだよ!!!!」
被害者となってしまった少年から涙いっぱいの目で睨まれ、ジェイドは肩をすくめる。
これは失敬、と笑顔で手を差し伸べるが、誰もついていけていない。
ジェイドは自分のせいということを棚に上げ、やれやれと肩をすくめた。
流石に、「適応能力がないですねぇ」とは言わないでおいた。
船室に案内されたジェイドは優雅に足を組み、不信の目を向けてくるメンバーに相対していた。
「お茶でもどうぞ」
「おや、ありがとうございます。お名前をお伺いしても?」
「ジュディスよ」
「こんな状況でいきなりナンパ!?おっさんびっくり!」
「うっさいのよ、おっさん!」
「ひどいわ、りたっち!」
一気に騒がしくなった室内を尻目に、ジェイドは悠々と茶をすする。
それを見て、呆れ顔の青年が仕方なしに話を切り出した。
「俺は、ユーリ。あんたは?」
「ジェイド・カーティス。35歳。職業軍人。言って信じてもらえるかどうかはわかりませんが、ここの世界の人間ではなく、オールドラントという世界の人間です。ここに来た原因は不確定要素が多いのでお答えしかねます。・・・これぐらいでよろしいですか?」
「・・・・・」
「何か御不満でも?」
「・・・35歳?」
「ええ」
それが何か?と食えない笑みを浮かべつつユーリを見ると、そのユーリは引きつった顔で、同じ年代の男性を見る。
「・・・おっさん、同じ年かよ」
「ええ!?」
「・・・見えないわね」
「酷いわよ皆!おっさんが普通なの!」
今度は、皆の視線がジェイドに向けられる。
そこに、ジュディスが一言。
「いいじゃない、いつまでも若々しいって。素敵だわ」
「え、それっておっさんじゃ駄目ってこと?じゅでぃすちゃぁぁぁん!」
「うるさい!」
殴られ、レイブン撃沈。
そうした本人は、喧嘩を売っているかのように名乗りを上げた。
「リタ・モルディオ」
「エステリーゼといいます」
「僕はカロル。そこで気絶しているのがレイブンね。そして、こっちがラピード」
「わん!」
「よろしくお願いします」
「で?あんた、これからどうするんだ?」
「そうですねぇ・・・人を探したいのですが」
おそらく、後三人は一緒に飛ばされているはず、とジェイドは考える。
「なら、僕ら凛々の明星におまかせ!あ、でも代金は頂くよ?」
「こちらの通貨は持ち合わせていませんが?」
「そっちの世界のものでもいいよ、興味あるんだ」
ジェイドはポケットの中から、ひとつの石を取り出す。
「これでどうです?フォレストエメラルド。こちらにはないものと思いますが」
「淡く光っててきれい・・・リタ、リタ。見たことのないものですよ?」
「ちょっと見せて!」
手からもぎ取られ、宝石はリタの手の中。
真剣に見詰めている様子からして、当分は戻ってこないだろう。
「僕も見たかったのに・・・まぁ、いいや。じゃ、交渉成立!そのお仕事、凛々の明星が引き受けます」
「では、よろしくおねがいします」
ジェイドは微笑む。
売れば1000ガルド。だが、3人も人を探すのだからひとつで安いもの。
ちょろあまですね。
「あぁ?だれだぁ?まぁ、どうでもいい。俺の邪魔をするやつは・・・殺す」
どうやら、ザギの狂人っぷりは人間の間でも知られているらしい。
ユーリを狩りに来たはずの魔狩りの剣は今はザギを相手にしている。
主に相手にしているのは、先ほど名乗りをあげたティソン。
それを一人の少女が援護して、魔狩りの剣の首領はそれを眺めているだけ。
そして、今回の魔狩りの剣のターゲットとなっているユーリもまた見てるだけ。
・・・かなり奇妙な構図だ。
人間にしては超人の部類に入りそうな二人の戦闘は狭い洞窟内を大きく揺らす。
瓦礫が時々おちてきて、崩れ落ちるんじゃないかとユーリは思う。
始祖の隷長であるユーリは瓦礫が振ってきたぐらいで死ぬことはないが、人間では押しつぶされてひとたまりもないだろう。
しかし、そんなこと気にはしないというように魔狩りの剣の首領は仁王立ちのまま。
・・・よほどの豪胆か、ただの馬鹿か。
それでも、そんな馬鹿をユーリは嫌いではない。
人間などどうでもいいと思うユーリが、人全てを嫌いにならないのはこんな馬鹿を好ましいと思うからだ。
ま、自分が戦闘が好きで楽しめるというのが一番の理由であるだろうが。
『気に入った。暇つぶしに相手・・・してやるよ』
ザギですら、初めて見ただろうか。
黒い巨体がゆらりと動き、初めてその足で地を踏みしめる。
四枚の翼は狭い洞窟内に広がり。
ユーリが足を踏みしめるたびにずぅんという地響きが広がる。
彼が動いたことで既に限界だった結界は、音をたてて砕け散った。
粉々になった光が降り注ぐ中、おそらくこの世界で最強と呼ばれる存在の始祖の隷長は人間たちを見下ろした。
『さぁ、誰から来る?全員まとめてでも、相手をしてやるぜ?』
多くの魔物を相手にしてきた魔狩りの剣のメンバーであっても、今まで目にしたことのない存在の威圧感に青の場から動くこともできない。
「やっと大物が相手してくれる気になったみたいだな」
「師匠!」
「ナン。お前は他のやつら連れて下がってろ」
「でも!」
「・・・こいつは、俺が相手をする」
「首領・・・師匠・・・わかりました。気をつけてください」
ナンが仲間を連れておとなしく引き下がったとき、ユーリに向かおうとするクリントとティソンを阻むものが一人。
「俺様を無視してんじゃねぇ。そいつは俺の獲物だぁ!」
「・・・誰の獲物など関係ない。力あるものが残る。・・・それだけだ」
「要するに、やったもん勝ちってことだぁ!ははっハートが疼くぜ!」
『さっさとしろよ。でなきゃ、こっちからいくぜ?』
ユーリの前足が、三人めがけて振り下ろされる。
それが開始の合図。
結局みんな戦闘狂。
「そうだよ!まだそんなに長いこと一緒にいるわけじゃないけど・・・ユーリがそんなことする人じゃないってわかる!」
宿屋でユーリの帰りを待っていたエステリーゼたちは、フレンの言葉にそう反論した。
フレンとて、信じたくはない。
しかし、見てしまったのだ。
血に濡れた刀をもって、ラゴウの前に佇むユーリの姿を。
それでも、ユーリが自分はやっていないと言えばフレンは信じただろう。
だが・・・
ユーリは否定しなかった。
ぎりっと、フレンは固く拳を握る。
「とにかく、何かの間違いにきまってます!ユーリを探して事情を・・・」
「僕だって、ユーリがやっていないと信じたい!!でも、だめなんだ!!だめなんですよ!!」
フレンの叫びが響き、逆に部屋の中はしんと静まり返った。
エステリーゼも、いつも柔らかな雰囲気を絶やさないフレンの並々ならない様子に、ついに顔を覆って泣き始めてしまう。
そして、カロルも涙をこらえてはいるが、その目からはこらえきれない涙が幾度も零れ落ちた。
「起こったことには必ず原因・要因・環境が関連し、時に不確定要素もはいるわ。魔導器ならそれぐらいで済むけど、人間はそれに思考や役割・感情が交じる。・・・魔導器よりやっかいなものよ。あんたは、ユーリが血に濡れた剣をもって、被害者の前に立ってた。そして、それを否定せずに逃げたっていうことしか見てないじゃない。」
「それは・・・」
「信じないだの、なんだの言う前に、その辺はっきりしたほうがいいんじゃないの?」
リタの言葉を聞いたエステルは、ぐっと流れた涙を拭き顔をあげた。
「・・・そう・・・ですね。そうですよね!フレン、私はやっぱりユーリを探します。そして、彼の口からきちんと聞きたい」
「僕も!」
「ワン!」
「・・・あんたらだけじゃ危なっかしいから、あたしもいくわ」
活気を取り戻した室内で、フレンも思わず笑みを浮かべる。
「・・・私は、ひとまず騎士団に戻ります。評議会の人間が殺された以上、評議会が黙ってないでしょうから・・・。そちらのほうが情報も集まるでしょう」
「隊長!」
「別に、ユーリの罪を隠蔽するとか言ってるんじゃないよ、ソディア。真実を確かめるだけだ」
「・・・・・・わかりました」
不満げなソディアを説き伏せたフレンは一国の猶予も惜しいと言わんばかりに、すぐさま立ち上がる。
そして、エステリーゼたちに別れを告げると、帝国へと向かった
「・・・やってくれるな」
机に肘をついて溜息をつきながらも、報告書に目を通した騎士団長・・・アレクセイの眼は笑っている。
その様子に、レイブン・・・いや、シュバーンは肩をすくめて見せた。
「大将、それはどういう意味で?」
「もちろん、褒めているのさ。あの腐りきった評議会の元締めに目をつけ、それをやりきる度胸。その成果に比べれば、少々のミスなど何のマイナスにもならない。今回のこと程度の弊害ならば、私が処理すればよいことだ」
「さすがは騎士団長閣下」
楽しそうに笑うシュバーンに、今度はアレクセイが渋い顔をする。
若くして騎士団長という位についたアレクセイは、騎士団内部において絶大な信頼を得ていた。
能力に応じて公正に行われる人材起用
能力に劣るものも切り離さず、その者が持つ能力を生かせるような配置
そして、いざというときは自分が責任を持つ、という姿勢。
これにより、部下は失敗を恐れず能力を最大限に発揮できる。
強いカリスマを持つ指導者・・・それがアレクセイだ。
そのカリスマと人となりを支持するものは多い。口にして言いはしないが、シュバーンもその一人だ。・・・まぁ、貴族のお坊ちゃん連中には好かれないことが多いが・・・
「茶化すな、シュバーン。お前にも働いてもらうぞ」
「はいはい・・・・・・人使いの荒い・・・」
「ならば、今後永遠に休みにしてやってもいいが?」
「謹んで任務を承ります、騎士団長閣下!」
びしっと手本のような敬礼をしてみせるシュバーンに、アレクセイは口元を緩める。
おどけて見せたり真面目に見せたりと、せわしない男だが実力は確かだ。
自分が小隊長になったときからの付き合いであるこの男は、アレクセイにとって最も信頼できる男だ。
アレクセイ自身も口に出していったことはないが・・・。
だからこうして、重要な任務を与えるのだ。
「では、シュバーン。これは極秘任務だ・・・」
・・・これはいったいどういうことなんだ?
帝都に戻ったフレンは、何の騒ぎも起こっていない帝都の状況に、内心首をかしげていた。
ラゴウ執政官が亡くなったとは、噂になっている。
しかし、それはどれも魔導器の暴走の事故によるもの・・・となっており、殺された・・・などとは言われていない。
下町の人間らは、ラゴウが勝手に魔導器の実験を行っていて、その爆発で死んだんだ。自業自得・・・と言っている。
最も騒いでいそうな評議会も穏やかなもので、平素の通りであった。
かけた議員はのちに補充される予定と聞く。
一方、騎士団のほうも奇妙なもので、提出した報告書について詳しい説明が求められることもなく、ただ、エステリーゼ様が旅をするのは危険であるから、それをお守りするように・・・とだけ命じられた。
「・・・わからないことだらけだ」
フレンはため息をついて空を見上げる。
・・・ユーリ、君は一体何をしているんだ?
前はいつも一緒だった。
お互いのことで知らないことなんかないくらいに、分かり合ってた。
ユーリが騎士団をやめてもそれは変わらない・・・そう思っていたのに。
・・・ユーリ、こんなに君を遠く感じたことはないよ。
フレンは苦悩に顔をゆがませた。
だが、そればかりではいられない。
ユーリを探すと出て行ったままのエステリーゼはまだ戻っていない。
彼女を守れというのが、今の自分への命だ。
いろいろと納得できないところがあるが、それはエステリーゼも同じはず。
ならば、彼女を守りながら自分なりに調べてみたらいい。
フレンは決意を新たにし、足を進める。
それが、再びユーリと自分をつなぐ道だと信じて・・・。