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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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それから、フレンがアスピオに向かったという情報の通りに、その街へ向かった。
残念ながら、フレンには会えなかったが、アスピオの町で天才魔道師リタと出会い、魔導器泥棒がトリム港にいるという情報を得たユーリは、海をはさんで反対側の港・ノール港に到着した。
近づくにつれて悪くなる天気にユーリは眉をひそめる。
なぜだか、この天気はおかしい・・・そう感じたためだ。
しかし、そう感じているのはユーリだけではないらしく、皆、一様に空を見上げていた。

しかし、町の雰囲気をも暗鬱としているのは天気のせいだけではなかった。

「子供だけは返してください!この天気で漁もできないのはお役人様も御存知でしょう?働けるようになれば、必ず納めますから!」
「なら、リブガロでも狩ってこい。あれの価値は知っているだろう?税金の納入は例えどんな理由であっても期日通りに・・・それが執政官様からのお達しだ」

もめあう役人と住民。
住民の訴えは結局通らず、がっくりとうなだれる夫婦に役人はそれ以上言葉をかけることもなく去っていく。
そして、傷だらけの夫は妻の制止も聞かずに立ち上がった。
役人に言われたリブガロとやらでも狩りに行くのだろう。
ユーリはその様子を冷たい目で見つめていた。





「おっと悪いな。だけどな、そんな簡単にこけるような奴が今出て行っても死にに行くだけだ」

わざとらしく男をこかせ、ユーリは悪びれもせずそう言い放った。
それをたしなめながら、エステルが男に治癒術をかける。

傷が癒え、わずかに体力を回復した男は、ユーリに向かって咆えた。

「よそ者のあんたに何がわかる!今俺が行かなければ、子供が殺されてしまう!この町の執政官はそんな奴だ!よそからの助けなんかない!俺たちが・・・俺が、何とかするしかないんだ!」
「ティグル・・・」

後ろから夫を抱きしめ、泣く妻。
ぐっと涙を堪える夫。
これだけの騒ぎにも、誰かが出てくるわけでもない、暗く淀んだ町。

ユーリが住んでいた下町では、貧しい生活の中でも人々の助け合う心があった。
活気があった。

だが、ここにはない。

これが、この町の執政官、ただ一人が引き起こしていることなのか。
ならば・・・

ユーリは瞳を閉じると、そっとその場を離れる。
それに気付いたカロルがユーリの名を呼ぶが、ユーリはそれに手をひらひらと振るのみで応え、そのまま歩みを止めることはなかった。






夜。
相変わらずの雨はやまず、更に濃い闇を落とす。
しかし、その闇はユーリにとっては都合の良いものだった。

闇に紛れて、執政官の屋敷まで向かう。
ただでさえひっそりとしている町に、夜に出歩くものなどなく、ユーリの姿を見るものはない。

ただ一人を除いて。

「青年、お仕事?」

顔は見えなくとも、声でわかる。
笑いを含み、こちらをからかうような声音。
ユーリはため息をつくと、声をかけた人物をにらみつけた。

「おっさん。こんなとこで油売ってると上司にどやされるぜ?」
「ひどっ。青年のために、汗水たらして情報とってきてあげたのに」
「で?」
「たたじゃあげなーい」
「あっそ。じゃあな、おっさん」
「ちょっとまってよーう!」
「で?」
「・・・ひどいわ、青年。おっさん泣いちゃう」

さめざめと嘘泣きを始めたおっさんことレイブンに、いい加減苛立ったユーリはその胸倉を掴みあげた。

「ぐぇ」

蛙がつぶれたような声を出すレイブンに、にっこりとめったに見せない綺麗な笑みを浮かべ、ユーリは顔を近づける。

「・・・俺のために、教えてくれるんだろ?レイブン?」

耳元でそう囁くと、力が抜けたようにレイブンがへたり込む。

それ反則~などと言っているが、ユーリの知ったことではない。



何とかとはさみは使いよう・・・ってな。



レイブンをたぶらかして得た情報は、ここの主であるラゴウは天候を操作する魔導器を作り出していること。
それを利用して船の出入りを禁止し、その上高い税金をかけ住民に圧政をしいていること。
そして、税を払えなかった市民をリブガロと闘わせたり、時には地下で飼っている魔物と闘わせその様子を楽しんでいる・・・ということであった。

「地下へは屋敷左側の昇降機から行けるわよ。右側が降り専用ね。」
「ラゴウは上だろ?」
「おそらくね。でも、改造された魔導器は地下にあるんじゃないかって話よ」
「そうか・・・なら、下から行くべきか?」
「でも、もたもたしてる間に騎士団が来ちゃうかもよ?」
「フレンなら門前払いくらってたぜ?」

ユーリの言葉にレイブンは目を丸くする。
確かにフレン隊は今この街を訪れているが、ユーリはその場にいなかったはずだ。

「見てたの?」
「あの屋敷見てたんだから、いやでも目に入るさ」
「ま、それもそうね。知ってるんならいいけど、青年の仲間はいまフレン隊と行動中。騒ぎがおきたらこれ幸いととんでくるでしょうよ」
「あー・・・わかった。とりあえず、肩慣らしついでに下から行くか。一緒に来るんだろ?おっさん」
「後で、ご褒美ちょうだいね」
「はいはい」


地下にいる魔物は飢えているのか凶暴化しており、ユーリたちが足を踏み入れると途端に襲いかかってきた。
一匹一匹はユーリたちにとって大した強さではないものの、数が多くさすがにうんざりしてきた。
そのとき、かすかにだが子供の泣き声が聞こえてくる。
押し殺すかのようなかすかな鳴き声がどうやら隣の部屋から聞こえてくるようだ。
過度に魔物を刺激しないように進むと、がれきの陰で隠れる少年を発見した。
少年を脅かさないように、そばに膝をつき、声をかける。

「大丈夫か?一緒にここから出るぞ」
「ひっ・・・ぅ・・・ほんと・・・?出られるの?」
「ああ、父さんと母さんの所に帰してやる」
「うん・・・っ」

小さな体を抱き上げ、なだめるように背を叩く。
しがみついている少年の小さな手は傷だらけで、それを見たユーリは顔をゆがめた。

「おっさん、あとどれくらいだ?」
「もうすぐ出口・・・じゃないけど、屋敷のほうに出るはずよ」
「そうか。おっさん、この子を頼む。・・・急ぐぞ」
「わかってるわよ」

ユーリはギュッと刀を握りなおし、地を蹴った。
道をふさぐ魔物を一刀で切り伏せ、そのまま道を駆ける。
迷いのないその剣筋をみていると、まるで舞を踊っているようだとレイブンは思う。
ふわりと踊る長い髪、わずかな光をはじいて光る刀身・・・思わずため息をつくほどほれぼれとした。

本人に言うと、鼻で笑われるのが落ちなので、いわないが。



ようやく辿り着いた場所は鉄格子のある牢。
そっと触れてみるが、別に魔導器で強化されているわけでもない、普通の牢のようだ。
これなら壊せるか・・・ユーリが考えていると、カツカツ・・・と誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
こんな人様に言えないような場所にやってくるのは作った本人か関係者。
好都合・・・と唇に身を浮かべ、ユーリは慌てる風もなく、その人物を待ち受ける。

そして、姿を見せた人物にユーリは笑みを浮かべた。

「ビンゴ」
「おや、見ないうちに活きのよさそうなのが、自ら入っているとは」
「お前がラゴウか」

黒く貴族の好きそうな無駄に高価な装飾の施された衣服・・・。
それに身を包んだ男は、ユーリの言葉に嫌悪をあらわにした。

「口を慎みなさい。あなたのような愚民が私の名を軽々しく口にしないでもらいましょうか」
「あんたがどんだけえらいかしらねぇがな・・・あんたはやりすぎだ」


暗い瞳で睨むユーリを鼻で笑い、ラゴウは見下した視線をユーリに送る。

「何がやりすぎだというのです?私は上に立つ選ばれた人間だ。その私が下民をどう扱おうとかまわないでしょう?彼らは税を納め、働くしか能のない物。税も納められないなら、私を楽しませる役にぐらい立ってもらわねば。べつに、下民の一人二人いなくとも、換えはいくらでも・・・ひっ」

バァン!

大きな音とともに鉄格子が吹き飛び、それまで見下した表情しかしていなかったラゴウに驚愕と恐れが浮かぶ。

「・・・そろそろその胸糞わりぃ話も終わりにしようぜ」
「くっ・・・だれか!こいつらを捕えなさい!殺しても構いません!」

逃げるラゴウをすぐさまユーリは追おうとするが、傭兵と思われる数人の男に道をふさがれる。
ユーリは舌打ちをすると、すぐさま横から襲いかかった男の刃を避ける。
的確に打ち込まれる剣撃をみると、場数を踏んでいるのがわかる。
おそらくは、名の知れた傭兵なのであろう。
魔物のように素直に倒されてはくれず、全員を動けなくした頃には既にラゴウの姿はなかった。

「逃げられたわねぇ」

少年を抱えながら、のんびりというレイブンをひと睨み。

「うるせぇよ、おっさん。追うぞ」
「りょーかい」

刀についた血を振り落としつつ、ユーリは階段を駆け上る。
その眼は、獲物を追う獣のようだった。





「おいついたぜ、ラゴウ」
「・・・くぅっ・・・」

大きな魔導器の前。
逃げ場を奪われ、憎々しげにユーリをにらむラゴウに、ユーリは冷めた表情で剣を突き付ける。
鼻先に突きつけられたそれに、ラゴウは動きを取れない。
雇っていた傭兵はたった二人の人間に阻まれ、近くにはいない。

「あなたの目的はなんです?」
「目的?」
「そうです。ここは取引をしようではありませんか。あなたの望みを私が叶えましょう」
「のぞみ・・・ねぇ」

追い詰められたラゴウから出たのは命乞いやあきらめの言葉ではなく、ユーリを自分の思い通りに動かそうという言葉。
取引というのはただの言葉遊び。
ラゴウにとって、彼にとっての下民との約定など守る価値のないもの。
要は、この場さえ乗り切ってしまえばそれでいいのだ。
そうすれば、また駒は用意できるのだから・・・。

そんなラゴウの思惑はよそに、ユーリは冷たい笑みを浮かべる。

「おれの望みはただ一つ・・・あんたの・・・死だ」
「待ちなさい!そんなことが許されると・・・!?」
「今から死ぬお前が、そんなことを考える必要はない」



ズッ・・・


細身の刀が、ラゴウの胸を貫く。
大きくひらかれるラゴウの目。
赤い刀身が自分の体から抜かれる。
その時。
ラゴウの目には、刀の柄に刻まれた紋が見えた。

「きさ・・・ま・・・暗・・・・・・御・・・・・・」

どさり、と崩れ落ちた体。
ユーリは懐から白い羽を取り出すと、流れ出す血液に触れさせる。
すっと赤く染まった羽根。
ユーリはそれを紙にはさむと、丁寧に懐にしまった。
これで終わり・・・
いつも通りの仕事




のはずだった。






「・・・・ユーリ・・・」

静かに声が響いた。
その声の主を見なくても、ユーリにはそれが誰だかわかる。


・・・最大のへまだな・・・




暗行御史は正体を明かす必要はない。
裁かれる者にも
周囲の人間にも
暗行御史は国の影。
その存在を日の下にさらせば、世は混乱する。
存在は明かすな・・・親しいものには特に。


師の言葉が思い出される。
暗行御史となり、行ったことに対する後悔はない。
だが・・・



・・・お前にだけは知られたくなかったよ



「・・・・・・フレン」
「ユーリ・・・どうして・・・」
「ユーリ・ローウェル!!貴様を執政官殺人の罪で拘束する!」

力ないフレンの声は、彼の副官であるソディアの声にさえぎられる。

「まて・・・ソディア!」

フレンの制止の声も聞かず、こちらへ向かってくるソディアの姿を見て、ユーリはもう時間がないことを悟る。
捕まるわけにはいかないのだ。
たとえ、これを境にフレンと一切の会話ができなくなっても。
自分が闇にまぎれて、隠れて生きる生活になったとしても。

ウィチルの放ったファイアーボールがユーリのそばを掠める。
ちっ・・・と舌打ちをし、出口を目指して足を踏み出したとき・・・

バァンという大きな音とともに、窓が砕け散った。

誰もが、その方向に目を奪われる。
窓からの乱入を果たしたのは、空を飛ぶ魔物と白い鎧をまとった人物。

俗に竜使いと呼ばれる存在の乱入で、ソディアとウィチルの動きが一瞬止まる。
そのすきを見逃す竜使いではない。
そのまままっすぐに巨大な魔導器に向かうと、その魔核を槍で一閃。
そして、竜使いはユーリに手を差し伸べた。

ユーリは、迷うことなくその手を取る。
ふわりと、宙に浮く体。


「ユーリ!!!」


フレンの必死に叫ぶ姿が見える。


それに、ユーリは笑ってみせる。




でもそれは泣き笑いのようなものにしかならなかった。
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