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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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岩の隙間からほんの少し日の光が差し込むだけの洞窟の中。
ユーリはいつもと変わらず寝そべったまま惰眠をむさぼっていた。
別に眠らなくても生きていけるのだが、やることがないのだから眠るしかない。
最近はあの戦闘狂も姿を見せない。
修行でもしているか、のたれ死んだか。
まぁ、自分のいるこの洞窟までこれるのだ。
簡単に死んだりはしないだろうと、ユーリは思う。
ここはテムザ山のほぼ頂上。人が足を踏み入れぬ土地だ。

しかし、その誰も足を踏み入れないはずの洞窟に物々しい足音が響く。
鎧のこすれる音、人の臭い。
足並みがそろっていない音からして、軍ではなさそうだ。
だが、こんなところに武装してくるのだ。
調査隊ではなく、討伐隊とでも考えたほうが良いだろう。

ユーリは面倒くさそうにため息をつくと、寝そべった姿勢は崩さぬまま、招かれざるものたちを待った。



「いたな・・・魔物」
「はははっ!ここで息の根を止めてやる!」

出てきたのは大剣を持った大男と、目元をすっぽりと布で覆った男。
その後ろには少女の姿も見える。
更にその後ろには20近くはいるだろうか・・・武装した男女の姿。

敵意も露にこちらを睨んでくるが、正直、ユーリには全く興味がない。

これ見よがしに、大きくあくびをすると、彼らを見もせず首をそむけた。

「こっち見やがれ!今からお前を殺すのは、この魔狩りの剣ティソン様だ!」
「・・・・・・」
「首領、師匠。気をつけてください。罠かもしれません」

誰が人間なぞ狩るのに、罠なんてめんどくさいもの作るか。とユーリは思うがそれを口にすることはせず、ひたすらに無視を決め込む。
だいたい、自分に対して一人で勝負を挑んでくるザギは珍しくて相手をしていたが、集団でやってくる屑など見飽きている。
生命の危機にならないし、正直どうでもいい。
・・・鬱陶しいが。

どうしようかなーふきとばそうかなーなんて、尻尾の先をふよふよ動かしながら考えていると、
どがん、とか、ガラガラとか岩が崩れ落ちる音、何かを吹き飛ばす音、人の悲鳴が聞こえてくる。
やってきたのは見知った気配。

「俺の獲物になにしてやがるっ!!そいつは、俺が切り刻むんだよ!」

相変わらずの戦闘狂。
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※ユーリは始祖の隷長

「ゆぅぅぅりぃぃぃぃぃいいいい」

狭い洞窟内。
やってきた戦闘狂の声が響き渡る。
反響して大変なことになっているのだが、声を発している当人は全く気にしないのだからその被害を被るのは洞窟内にいる始祖の隷長だけとなる。
残念ながら聴力が他の種より良いために、これだけで精神的ダメージは甚大だ。
うんざりといった感じで、閉じていた瞳を開く。

『また来たのか』
「俺と勝負しろ、ユーリ!」

前髪だけ色の違うピンクの髪。
両手には赤い剣。
人間ではあるが、イカレているという部類であるというのは久しく洞窟から出ていない始祖の隷長でもわかった。
名をザギという。

一方、対するのは黒竜。
名をユーリ。
硬質な鱗はこの世界で最強の強度を誇るとされる。
頭からのびる角は銀。
長い首の後ろにある鬣も銀。
背にある翼は黒い鳥のような翼が一対、蝙蝠のような皮膜の翼が一対。
闇の中にあってぼんやりと光る瞳は紫であった。
その巨大な体躯は美しく強靭で、これが空を駆けることがあれば、人は羨望と畏怖の瞳で彼を見上げるだろう。
しかし、その体が空を駆けることは今はない。
忌まわしき封印の結界が、彼の存在を封じ込めているのだ。
綻びにてところどころ穴が開いてはいるが・・・。

ユーリはほころびた結界の穴から尾のみを出し、ザギの眼前に振り下ろす。
ずぅん、という重い地響き。
たかが尾の一振りでも、食らってしまえば人など人とまりもない。

しかし、それを見たザギは不満そうに口を尖らす。

「またしっぽかぁ?」
『その尻尾に勝てるようになったら首を出してやるよ』
「つまらないぞ、ゆぅりぃ」
『文句があるなら帰れ』

ばさりと切り捨てるように言われ、ザギは仕方なく尻尾に向かって切りかかる。
自在に動く尾は時になぎ払い、振り下ろし、ザギを翻弄する。
しかし、その尾の持ち主は地に寝そべったまま。
見るものがいれば、猫が猫じゃらしにじゃれている様を想像するかもしれない。
・・・下手をすると命をとりかねない猫じゃらしであるが。

どれほどそうしていただろうか。
飛び上がったザギの体に、ユーリの尾が直撃。
ザギの体は壁に叩きつけられた。
それによって崩れた土砂がザギの体を覆い、静寂が訪れる。

しかし、それもつかの間。

ガラガラと土砂の山が崩れ、中から埃まみれのザギが現われた。
驚いたことに、ほぼ無傷。
ユーリは、こいつは本当に人間か、と内心疑いの眼を向ける。

「ははははは!楽しい!楽しいぞ、ユーリ!」
『馬鹿か』
「俺はまだ強くなる!またくる!また来るからな!逃げるなよ、ゆぅりいいいいい!」

戦闘狂は走り去り、再び訪れた静寂。
ユーリはひとつあくびをして、目を閉じた。

先ほどの戦闘でまた結界の綻びは広がった。
本当ならばこんな結界など、ユーリの力を持ってすればガラスよりももろいものであるのだ。
だが、ユーリはそれをせず、ここで眠るだけ。
することといえば、食事と睡眠と、尻尾の運動。

ユーリはまた来るであろう戦闘狂の姿を一瞬浮かべ、くすりと笑う。
いわないが、尻尾の運動は気に入っているのだ。

それから、フレンがアスピオに向かったという情報の通りに、その街へ向かった。
残念ながら、フレンには会えなかったが、アスピオの町で天才魔道師リタと出会い、魔導器泥棒がトリム港にいるという情報を得たユーリは、海をはさんで反対側の港・ノール港に到着した。
近づくにつれて悪くなる天気にユーリは眉をひそめる。
なぜだか、この天気はおかしい・・・そう感じたためだ。
しかし、そう感じているのはユーリだけではないらしく、皆、一様に空を見上げていた。

しかし、町の雰囲気をも暗鬱としているのは天気のせいだけではなかった。

「子供だけは返してください!この天気で漁もできないのはお役人様も御存知でしょう?働けるようになれば、必ず納めますから!」
「なら、リブガロでも狩ってこい。あれの価値は知っているだろう?税金の納入は例えどんな理由であっても期日通りに・・・それが執政官様からのお達しだ」

もめあう役人と住民。
住民の訴えは結局通らず、がっくりとうなだれる夫婦に役人はそれ以上言葉をかけることもなく去っていく。
そして、傷だらけの夫は妻の制止も聞かずに立ち上がった。
役人に言われたリブガロとやらでも狩りに行くのだろう。
ユーリはその様子を冷たい目で見つめていた。





「おっと悪いな。だけどな、そんな簡単にこけるような奴が今出て行っても死にに行くだけだ」

わざとらしく男をこかせ、ユーリは悪びれもせずそう言い放った。
それをたしなめながら、エステルが男に治癒術をかける。

傷が癒え、わずかに体力を回復した男は、ユーリに向かって咆えた。

「よそ者のあんたに何がわかる!今俺が行かなければ、子供が殺されてしまう!この町の執政官はそんな奴だ!よそからの助けなんかない!俺たちが・・・俺が、何とかするしかないんだ!」
「ティグル・・・」

後ろから夫を抱きしめ、泣く妻。
ぐっと涙を堪える夫。
これだけの騒ぎにも、誰かが出てくるわけでもない、暗く淀んだ町。

ユーリが住んでいた下町では、貧しい生活の中でも人々の助け合う心があった。
活気があった。

だが、ここにはない。

これが、この町の執政官、ただ一人が引き起こしていることなのか。
ならば・・・

ユーリは瞳を閉じると、そっとその場を離れる。
それに気付いたカロルがユーリの名を呼ぶが、ユーリはそれに手をひらひらと振るのみで応え、そのまま歩みを止めることはなかった。






夜。
相変わらずの雨はやまず、更に濃い闇を落とす。
しかし、その闇はユーリにとっては都合の良いものだった。

闇に紛れて、執政官の屋敷まで向かう。
ただでさえひっそりとしている町に、夜に出歩くものなどなく、ユーリの姿を見るものはない。

ただ一人を除いて。

「青年、お仕事?」

顔は見えなくとも、声でわかる。
笑いを含み、こちらをからかうような声音。
ユーリはため息をつくと、声をかけた人物をにらみつけた。

「おっさん。こんなとこで油売ってると上司にどやされるぜ?」
「ひどっ。青年のために、汗水たらして情報とってきてあげたのに」
「で?」
「たたじゃあげなーい」
「あっそ。じゃあな、おっさん」
「ちょっとまってよーう!」
「で?」
「・・・ひどいわ、青年。おっさん泣いちゃう」

さめざめと嘘泣きを始めたおっさんことレイブンに、いい加減苛立ったユーリはその胸倉を掴みあげた。

「ぐぇ」

蛙がつぶれたような声を出すレイブンに、にっこりとめったに見せない綺麗な笑みを浮かべ、ユーリは顔を近づける。

「・・・俺のために、教えてくれるんだろ?レイブン?」

耳元でそう囁くと、力が抜けたようにレイブンがへたり込む。

それ反則~などと言っているが、ユーリの知ったことではない。



何とかとはさみは使いよう・・・ってな。



レイブンをたぶらかして得た情報は、ここの主であるラゴウは天候を操作する魔導器を作り出していること。
それを利用して船の出入りを禁止し、その上高い税金をかけ住民に圧政をしいていること。
そして、税を払えなかった市民をリブガロと闘わせたり、時には地下で飼っている魔物と闘わせその様子を楽しんでいる・・・ということであった。

「地下へは屋敷左側の昇降機から行けるわよ。右側が降り専用ね。」
「ラゴウは上だろ?」
「おそらくね。でも、改造された魔導器は地下にあるんじゃないかって話よ」
「そうか・・・なら、下から行くべきか?」
「でも、もたもたしてる間に騎士団が来ちゃうかもよ?」
「フレンなら門前払いくらってたぜ?」

ユーリの言葉にレイブンは目を丸くする。
確かにフレン隊は今この街を訪れているが、ユーリはその場にいなかったはずだ。

「見てたの?」
「あの屋敷見てたんだから、いやでも目に入るさ」
「ま、それもそうね。知ってるんならいいけど、青年の仲間はいまフレン隊と行動中。騒ぎがおきたらこれ幸いととんでくるでしょうよ」
「あー・・・わかった。とりあえず、肩慣らしついでに下から行くか。一緒に来るんだろ?おっさん」
「後で、ご褒美ちょうだいね」
「はいはい」


地下にいる魔物は飢えているのか凶暴化しており、ユーリたちが足を踏み入れると途端に襲いかかってきた。
一匹一匹はユーリたちにとって大した強さではないものの、数が多くさすがにうんざりしてきた。
そのとき、かすかにだが子供の泣き声が聞こえてくる。
押し殺すかのようなかすかな鳴き声がどうやら隣の部屋から聞こえてくるようだ。
過度に魔物を刺激しないように進むと、がれきの陰で隠れる少年を発見した。
少年を脅かさないように、そばに膝をつき、声をかける。

「大丈夫か?一緒にここから出るぞ」
「ひっ・・・ぅ・・・ほんと・・・?出られるの?」
「ああ、父さんと母さんの所に帰してやる」
「うん・・・っ」

小さな体を抱き上げ、なだめるように背を叩く。
しがみついている少年の小さな手は傷だらけで、それを見たユーリは顔をゆがめた。

「おっさん、あとどれくらいだ?」
「もうすぐ出口・・・じゃないけど、屋敷のほうに出るはずよ」
「そうか。おっさん、この子を頼む。・・・急ぐぞ」
「わかってるわよ」

ユーリはギュッと刀を握りなおし、地を蹴った。
道をふさぐ魔物を一刀で切り伏せ、そのまま道を駆ける。
迷いのないその剣筋をみていると、まるで舞を踊っているようだとレイブンは思う。
ふわりと踊る長い髪、わずかな光をはじいて光る刀身・・・思わずため息をつくほどほれぼれとした。

本人に言うと、鼻で笑われるのが落ちなので、いわないが。



ようやく辿り着いた場所は鉄格子のある牢。
そっと触れてみるが、別に魔導器で強化されているわけでもない、普通の牢のようだ。
これなら壊せるか・・・ユーリが考えていると、カツカツ・・・と誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
こんな人様に言えないような場所にやってくるのは作った本人か関係者。
好都合・・・と唇に身を浮かべ、ユーリは慌てる風もなく、その人物を待ち受ける。

そして、姿を見せた人物にユーリは笑みを浮かべた。

「ビンゴ」
「おや、見ないうちに活きのよさそうなのが、自ら入っているとは」
「お前がラゴウか」

黒く貴族の好きそうな無駄に高価な装飾の施された衣服・・・。
それに身を包んだ男は、ユーリの言葉に嫌悪をあらわにした。

「口を慎みなさい。あなたのような愚民が私の名を軽々しく口にしないでもらいましょうか」
「あんたがどんだけえらいかしらねぇがな・・・あんたはやりすぎだ」


暗い瞳で睨むユーリを鼻で笑い、ラゴウは見下した視線をユーリに送る。

「何がやりすぎだというのです?私は上に立つ選ばれた人間だ。その私が下民をどう扱おうとかまわないでしょう?彼らは税を納め、働くしか能のない物。税も納められないなら、私を楽しませる役にぐらい立ってもらわねば。べつに、下民の一人二人いなくとも、換えはいくらでも・・・ひっ」

バァン!

大きな音とともに鉄格子が吹き飛び、それまで見下した表情しかしていなかったラゴウに驚愕と恐れが浮かぶ。

「・・・そろそろその胸糞わりぃ話も終わりにしようぜ」
「くっ・・・だれか!こいつらを捕えなさい!殺しても構いません!」

逃げるラゴウをすぐさまユーリは追おうとするが、傭兵と思われる数人の男に道をふさがれる。
ユーリは舌打ちをすると、すぐさま横から襲いかかった男の刃を避ける。
的確に打ち込まれる剣撃をみると、場数を踏んでいるのがわかる。
おそらくは、名の知れた傭兵なのであろう。
魔物のように素直に倒されてはくれず、全員を動けなくした頃には既にラゴウの姿はなかった。

「逃げられたわねぇ」

少年を抱えながら、のんびりというレイブンをひと睨み。

「うるせぇよ、おっさん。追うぞ」
「りょーかい」

刀についた血を振り落としつつ、ユーリは階段を駆け上る。
その眼は、獲物を追う獣のようだった。





「おいついたぜ、ラゴウ」
「・・・くぅっ・・・」

大きな魔導器の前。
逃げ場を奪われ、憎々しげにユーリをにらむラゴウに、ユーリは冷めた表情で剣を突き付ける。
鼻先に突きつけられたそれに、ラゴウは動きを取れない。
雇っていた傭兵はたった二人の人間に阻まれ、近くにはいない。

「あなたの目的はなんです?」
「目的?」
「そうです。ここは取引をしようではありませんか。あなたの望みを私が叶えましょう」
「のぞみ・・・ねぇ」

追い詰められたラゴウから出たのは命乞いやあきらめの言葉ではなく、ユーリを自分の思い通りに動かそうという言葉。
取引というのはただの言葉遊び。
ラゴウにとって、彼にとっての下民との約定など守る価値のないもの。
要は、この場さえ乗り切ってしまえばそれでいいのだ。
そうすれば、また駒は用意できるのだから・・・。

そんなラゴウの思惑はよそに、ユーリは冷たい笑みを浮かべる。

「おれの望みはただ一つ・・・あんたの・・・死だ」
「待ちなさい!そんなことが許されると・・・!?」
「今から死ぬお前が、そんなことを考える必要はない」



ズッ・・・


細身の刀が、ラゴウの胸を貫く。
大きくひらかれるラゴウの目。
赤い刀身が自分の体から抜かれる。
その時。
ラゴウの目には、刀の柄に刻まれた紋が見えた。

「きさ・・・ま・・・暗・・・・・・御・・・・・・」

どさり、と崩れ落ちた体。
ユーリは懐から白い羽を取り出すと、流れ出す血液に触れさせる。
すっと赤く染まった羽根。
ユーリはそれを紙にはさむと、丁寧に懐にしまった。
これで終わり・・・
いつも通りの仕事




のはずだった。






「・・・・ユーリ・・・」

静かに声が響いた。
その声の主を見なくても、ユーリにはそれが誰だかわかる。


・・・最大のへまだな・・・




暗行御史は正体を明かす必要はない。
裁かれる者にも
周囲の人間にも
暗行御史は国の影。
その存在を日の下にさらせば、世は混乱する。
存在は明かすな・・・親しいものには特に。


師の言葉が思い出される。
暗行御史となり、行ったことに対する後悔はない。
だが・・・



・・・お前にだけは知られたくなかったよ



「・・・・・・フレン」
「ユーリ・・・どうして・・・」
「ユーリ・ローウェル!!貴様を執政官殺人の罪で拘束する!」

力ないフレンの声は、彼の副官であるソディアの声にさえぎられる。

「まて・・・ソディア!」

フレンの制止の声も聞かず、こちらへ向かってくるソディアの姿を見て、ユーリはもう時間がないことを悟る。
捕まるわけにはいかないのだ。
たとえ、これを境にフレンと一切の会話ができなくなっても。
自分が闇にまぎれて、隠れて生きる生活になったとしても。

ウィチルの放ったファイアーボールがユーリのそばを掠める。
ちっ・・・と舌打ちをし、出口を目指して足を踏み出したとき・・・

バァンという大きな音とともに、窓が砕け散った。

誰もが、その方向に目を奪われる。
窓からの乱入を果たしたのは、空を飛ぶ魔物と白い鎧をまとった人物。

俗に竜使いと呼ばれる存在の乱入で、ソディアとウィチルの動きが一瞬止まる。
そのすきを見逃す竜使いではない。
そのまままっすぐに巨大な魔導器に向かうと、その魔核を槍で一閃。
そして、竜使いはユーリに手を差し伸べた。

ユーリは、迷うことなくその手を取る。
ふわりと、宙に浮く体。


「ユーリ!!!」


フレンの必死に叫ぶ姿が見える。


それに、ユーリは笑ってみせる。




でもそれは泣き笑いのようなものにしかならなかった。


基本的にユーリ至上。
捏造ばっかり。
CPは・・・どうだろう。今のところ未定。・・・総受け?


長編

孤高の断罪者
 ユーリ暗行御史パラレル。一応原作沿いに進める予定・・・。

  設定       ・・・


始祖の隷長と戦闘狂シリーズ
 ユーリが始祖の隷長。それにザギとか魔狩りの剣が絡む完全パラレル。

      

ハルルへの道のり。
途中の森をぬけ、挙動不信な少年と出会ったあと、ようやく目的地のハルルについた。
しかし、どういったわけか華は枯れ、目的のフレンもいはしない。
エステルは早速、町の人々の治療に走り回っている。
皇族でありながらあのまっすぐな性格に育ったことは珍しい・・・とユーリは思う。
たいがい、貴族というものは自分の私利私欲に走り、いかにうまく立ち回るかなどの悪知恵を働かせているものだ。
・・・いや、逆に皇族だからそんな知恵働かせずにすむし、まっすぐ育ったのか?
だが、これじゃ後々利用されて大変そうだ。
とか、余計なことを考えつつユーリは足を進ませる。

ハルルの樹の根元までやってくると、樹が枯れつつあるのが見て取れた。

「・・・これはどうしたんだ?」
「魔物に襲われた折に、傷ついてしまい・・・」

村長が下を向いたまま涙を堪えるように言う。
だが・・・

「そんな魔物如きにどうこうされそうな樹には見えないがな」

別に幹に大きな傷がついているわけでもなく、枝が折れてるわけでもない。
別に枯れる原因となるような大きな傷は見て取れないが・・・

自分の養い親なら、すぐにわかるのだろうが、とユーリが考えていると、人影に気づいたエステルが声を上げる。

「あ、カロル」

エステルが声をかけた方向をみると、とぼとぼと意気消沈したカロルが見える。

「あ・・・どうしたの?」
「樹が枯れた原因を調べてるんです」
「なんだ・・・そのこと・・・」

何か知っていそうなカロルの返答に、ユーリは彼に詰め寄る。

「何か知ってるのか?」
「土の色が違うでしょ?魔物の血をすっちゃって、そのせいで樹が枯れてるんだ」

言われたとおりに地面を見てみると、確かに地面の色がまだらに変わっている。

「なるほど。で、解決法も知ってるんだな?」
「・・・・・・・・パナシーアボトルで直ると思うんだけど」

その言葉に、森で出会った彼がエッグベアがどうこう言っていたことを思い出す。

「ああ、だからエッグベアの爪か。よし、いくかカロル先生」

そう言ってぽんと肩を叩くと、カロルが驚いたようにユーリを見つめる。

「え?」
「クオイの森にいるんだろ?エッグベア。俺はどれがエッグベアかまではわかんないからな。一緒に行こうぜ、カロル先生」
「で、でも・・・本当になおるかわかんないんだよ!?」
「別に、間違っててもいいんだよ。だれも治す方法なんてわかんねぇんだ。なら、だめでもともとってな。カロル先生は可能性を見つけたんだ。試すべきだろ?」
「そうですよ、カロル。試してみましょう!」
「う・・・うん」

元気を取り戻したカロルは、そんなに言われちゃ仕方ないよなー、などいいながら先を歩み始める。

「・・・認められたいお年頃ってね」
「?ユーリ、何か言いました?」
「何でもねーよ。いくか、エステル」
「はい」

カロルを追うように二人も歩き始める。
目的地はクオイの森。



「ユーリって合成に詳しいの?」
「あ?」

クオイの森へと戻る最中。
ユーリは興味津々といった感じのカロルとエステルに詰め寄られ、首をかしげた。

「魔物の一部やその地域で取れる物を素材としてアイテムや武器を作ることを合成とよぶ、です」
「普通、パナシーアボトルって聞いただけでエッグベアの爪が必要なんて出てくる人いないよ」
「あー・・・」

たしかに、店でアイテムを合成してもらうのに、その必要素材を何も見ずにいえる人物なんていないだろう。
合成辞典を見ながら・・・なら簡単だろうが。

「昔、人に教わったんだよ。長期の旅でアイテムに困っても何とかできるようにってな」
「え、じゃあユーリって合成もできちゃったりするの?」
「簡単な薬類なら作り方教わったけどな」
「すごいや!僕にも教えてよ!」
「俺教えるの苦手なんだよ。」
「えー!?」

それから、教える教えないなどの押し問答が続き・・・いつのまにやら森の奥までやってきていた。
カロルの臭い大作戦で臭いカロルをおとりにしつつ、更に森を歩く。

「ねぇ・・・そんなに後ろ歩かないでよ」
「ごめんなさい・・・カロル」
「クゥン」
「・・・だってさ」

においが半端じゃない。
正直、ちかよるのもちょっと・・・な匂いだが、それを言うとカロルが泣き出しかねないので黙って歩くが、カロルにはお気に召さない。

「ユーリまで後ろ歩かないでよ!」
「しんがりは大事だろ?」
「うぅ・・・」
「あ、ほらカロル後ろ」
「・・・そんなこといわれても騙されないんだか・・・・・・・うわぁぁぁあぁ!」

振り返ると熊。
カロルの大声に、熊の咆哮。

・・・耳が痛い

しかし、カロルの悲鳴のおかげか・・・エッグベアは更に腕を広げ威嚇の姿勢をとる。
要するにすきだらけ。
そこを見逃すユーリではない。
なにせ、鍛えられたのだから・・・・・・・

「よっ・・・と」

隙を狙っての強烈な一撃。
フェイタルストライク。

どしんと地響きを立てて倒れこんだ体に近づき、戦利品を獲る。


楽勝。


驚いているカロルとエステルに、にやりと笑ってみせる。

後は帰るだけ。





アイテムを作るところを見たいと訴えるカロルとエステルを、ひとつしか材料がないのに、失敗したらどうすると脅すようにして納得させ、ハルルで作ってもらったパナシーアボトル。
それを、町人が固唾を呑んで見守る中、カロルが地面に振りまいた。
地面の黒ずみは取れたようだが・・・

花は咲かない


「・・・やはり、駄目だったのか?」
「もう終わりだ・・・」
「華は咲かないのか・・・」


聞こえてくる人々の嘆き。
カロルは両手で耳をふさぐ。

「やっぱり、僕じゃ駄目なんだ。こんな方法で、樹が治るわけなかったんだ!」
「・・・そんな・・・」

エステルは、諦めきれないといった表情で樹を見あげる。

だって、蕾はある。
樹も枯れているのは一部の枝のみ。



・・・それなのに、華が咲かないなんて、ない。
カロルが考えてくれた解決策、間違ってるなんてない。
ただ、少し足りないだけ。
なら、私が・・・私の癒しで・・・!


「エステル?」

ユーリがエステルを見ると、彼女の周りから光が溢れていくのが見えた。


「お願い・・・・・・咲いて」


広く広がっていく眩い光。
それに呼応するように、花は咲き、枝葉が広がる。



奇跡


そう、人々は讃えるだろう。
だが・・・・・・本当に・・・?


ユーリは自分の背が熱くなるのを感じて、肩を抑える。
蹲りたくなるほどの熱。
しかし、それはユーリを害するものではないことを、何よりもうユーリ自身が知っている。

その熱が収まったとき、自分の頭に浮かんだのは・・・

「そうか・・・満月の子」

その言葉の意味、歴史、そして、エステルがその満月の子であるという事実。
それらの情報が激流のようにユーリに流れ込んだ。

「なるほど・・・な」

ユーリは息をついて姿勢を正す。
幸いにも、みな華に夢中で、ユーリの変化に気付いたものは誰もいなかった。

ユーリは複雑な表情で華を見あげる。
満開の華・・・これすら、過剰なエアルの乱れによるものなのか・・・。

世界を救う傍ら、世界を少なからず変異させる。
おそらく、彼女は知らないだろう。
昔に忘れ去られた事実だ。


「・・・どうすっかなぁ・・・」

ため息をついて空を見上げる。


満開に咲いたハルルの花は、憎らしいほど綺麗だった。
人々の笑顔も・・・






誰もが悲しむような結果なら、断ずるのは簡単なのに。
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