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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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「もう、今度はあたしがやるわ!」

そう言ったリタの行動は早かった。
銃口を自分に向けたかと思うと、皆が止めるよりも早く引き金を引いた。
エステルのときと同じく、もうもうとした煙がリタを包む。

「やったな」
「えぇ。リタならやると思ったわ」
「どうなるんだろうね」
「リタっちだものねぇ…」
「え?ええ?」

ひとり付いていけてないエステルを置いて、皆は煙が晴れるのを見守った。
しかし、出てきたのはフードをかぶった怪しげな人物。
その人物はいらだたしげに地団太を踏むと、すさまじい勢いでカロルに詰め寄った。

「このクソガキ!あたしの研究の邪魔すんじゃないわよ!」
「クソガキって…」
「今のあたしにとって、あんたはクソガキ以外の何物でもないわよ!!」

とりあえず、この状況がどのようなものであるか、このリタには分かっているらしい。
そして、わかっていてなお、このような言動をとるのはリタらしいと言える。

「いい!?あたしは今ね、やっとの第五エネルギー生命体の存在の手掛かりをつかんだのよ!これがどれだけのものか今のあんたに分かる!?」
「ちょ…っ…くるし」

がくがくと首を絞められたまま揺さぶられ、カロルが白目をむく。

「おーい、リタ。カロルが死ぬぞー」

ユーリがさしてあわてた様子もなく声をかける。
が、その声はリタには届いていない。
結局、カロルの窮地を救ったのはその場にいる人物でなく、3分という時間。

再び煙とともにリタの姿は消え、いつものリタが姿を現した。
しかし、彼女はぶるぶるとこぶしを震わせている。

「すごいわ。さすが未来のあたし!この発見を今に生かせば……」

ぶつぶつと笑いをにじませながら一人で話す。
かなり不気味。
だが、だれもそれを指摘できない。
しばらく、ぶつぶつとリタの声のみが響いていた。

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「じゃじゃん」
「なに、それ」

リタが自信満々に出してきたのは、何やら筒状のもの。
武器のようにもみえるが・・・。

「これはね、精霊魔術の偉大なる第一歩よ!四大精霊の力を絶妙な配分で・・・」
「あー、わりぃけど完結に頼む」

リタの講義が始まる前に、ユーリがあっさりと白旗を振る。
それについてはいつものことなのでリタも怒りはしない。

「要は、ストップフロウの改良版。10年前後時をさかのぼれるってわけ」
「へぇ!すごい!!」

カロルが瞳を輝かせる。
しかし、リタは少し渋い顔。

「でも、まだまだ改良の余地がありまくり。対象は人間一人に限られるし、時間は3分。この術式を受けた人間は10年後もしくは前の人間と入れ替わってここに姿を現すわ。」
「はいはい!僕やってみたい!」

カロルが勢いよく手を挙げる。
周りの人間は10年後の人物を見ることができ、本人は十年後の世界を体験できるわけだ。
とても魅力的だとは思う。…三分だが。

リタはその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑った。

「いいわよ。じゃ、がきんちょ。そこに立って。」
「うん!」

生き生きとしている二人とは対照的に、ユーリは冷ややかな目でそれを見ている。

「…要するに実験台だな」
「よいのではない?二人とも楽しそうだわ」
「そういや、おっさん。珍しく静かだな。真っ先に興味示すかと思えば」
「残念だけど、過去にも未来にも興味はないのよね~」
「おっさんの場合は10年後は怪しいもんな」
「うわっひどっ!おっさん傷ついちゃう」

三人が遠巻きに見ながらそう話している間に、リタはバズーカのようなものをカロルに向けた。

「じゃ、行くわよ。動かないで」
「う…うん」

カロルがごくりと息をのむ。

ボン

大きな音とともに放たれた術式。
それは、カロルに当たるかと思いきや…

「わぁ!」
「みなさん、お待たせしまし…」
「エステル!!」

エステルに命中した。
もうもうと立ち込める煙。
大きな音とともに飛んできた術式を、うっかりカロルがよけてしまったのが原因だ。
そして、扉を背にしてそんなことをしていたもだから、ちょうど運悪く扉を開けて入ってきたエステルに当たってしまった。
リタの目がみるみる吊り上っていく。

「あ~ん~た~ね~!」
「ごごご、ごめんっ!わざとじゃないんだ!」

弁解する声はリタには届かず、カロルは首を締めあげられる。
ユーリはその光景を見てため息をつくと、煙に包まれたエステルに声をかけた。

「いきてるかー?」
「…その声、ユーリですか?」

帰ってきた声はいつものエステルのものではない。
声質が変わったわけではないため、本人なのは間違いなさそうだが…

ユーリはジュディスとレイヴンと顔を見合わせる。
どうやら、本当に術式は成功のようだ。
彼らは静かに煙がはれるのを待った。
しかし、彼らに訪れたのは計り知れないほどの驚き。

「ぁああああ!?」

初めに叫んだのはカロルだったか、リタだったか。
ジュディスはまぁ、と口元を押さえ、レイブンは大口を開けたまま固まっている。
ユーリも目を見開いたまま固まっていた。
一人、エステルだけが目をきょとんとさせ、不思議そうに首をかしげた。

「みんなそろってどうしたんですか?あら?でも、みんな年が若いような…」

ふわりと広がったドレス。
まとめられた長い髪。
それだけであったならば、10年後のエステルらしい…という感想だけで終わっただろう。
しかし、問題はそこではない。
細身の彼女にしては大きく目立ったおなか。
それは即ち…

「「誰の子!?」」

リタとレイヴンの声が奇麗にハモる。

「え?え?」

しかし、そこはエステル。
状況がまったくつかめていないために、詰め寄るリタとレイヴンに答えることもできない。

「いいから、答えなさい!」
「リタ、なんだか怖いです。そえに、リタには一番にお教えしましたよ?」
「とにかく早く!」

もう時間がない。
焦るリタとは裏腹に、エステルはゆったりだ。

「ですから、これは私と……」

ごくり、と息をのむ。
しかし、その答えは聞くことはできず…
ふたたびエステルは煙に包まれた。

「あら?わたし…どうしたんでしょう」

帰ってきたのは不思議そうな顔のいつものエステル。

「嬢ちゃん。向こうでなんか見なかった!?」
「向こうって?」
「今行ってたでしょ!?」
「あぁ、入ったとたん誰もいらっしゃらないので、どうしてだろうと思ってました」

でも、みんなやっぱりいたんですね。どこに隠れてたんです?

エステルがそう問うが、誰もが全身から力が抜け、答えることができない。
不思議そうなエステルを残して、皆ぐったりとため息をつく。
もう一度使ってみたい。
しかし、向こうが身重なら、おいそれと使うわけにもいかない。
もやもやした気持ち悪さだけが残った。

すべては未来のお楽しみ。
突然の騎士団の出現。
ここが帝国領内の普通の市街ならば、騒ぎが収まるのだろうが、ここはノードポリカ。ギルドの街だ。
住むのは騎士団の人間を忌々しいと思う人間ばかりだ。
ここにいるフレンの出現は、当然ながら火に油を注ぐ結果となった。

「帝国の犬が何の用だ!」
「てめぇに用はねぇ!すっこんでろ!!」

怒号が飛び交う。
フレンがここで引き下がってくれるような人間ならまだよかったのだろうが、彼はそうではなかった。
自分の正義を信じて悪には屈しない。
彼の副官いわく、『騎士の鏡』だ。
当然、フレンはどんな罵倒にもたじろぐことなく、そこに凛と立っていた。
ユーリは頭を抱えたくなる。
だが、クリントに剣を突き付けて人質としている最中。ここで脱力するわけにはいかなかった。

…けど、あいつなんでこんなとこに来たんだ?

フレンはあの時シュヴァーンの命でキュモールを追ったはずだ。
その彼がなぜこんなところにいるのかが分からない。
気になるのは山々だが、今はこの場をなんとかするのが先決だ。
ちらりとベリウスに目をやると、彼女は分かっている、と言うようにうなづいた。

「騎士団の者よ。ここはギルドの街。ギルドによって作られ、ギルドによって守られる。ここで起きたいかなる争いもすべてはギルドによって対処する。そなたらの介入は無用じゃ」

丁寧な物言いをしてはいるが、その言葉は完全なる拒絶。
話し合いの余地などは全くない。
しかし、フレンも引き下がらなかった。

「残念ながらこちらにも理由はある。私は、国家反逆者を追ってここへ来た。今回の事件はその人物が誘発し、ギルド同士の抗争を呷った可能性が高い。国家反逆者の追撃は我ら騎士団の役目。いかに立ち去れと言われようと、応じることはできない!」

国家反逆者?
ユーリはフレンの言葉に息をのんだ。
現時点でそこまでの罪が確定しそうな人物…そして、フレンの隊長への急な昇進。
それを考えると…ある人物が降格し、その欠員をフレンが補うことになったと考えるのが妥当。
となれば反逆者は……

「キュモールか」

苦々しげに言い放つ。
その言葉はフレンには届かなかったようだ。
彼はギルドの面々とにらみ合っている。
ユーリは刀を突き付けたままクリントに話しかける。

「おい、答えろ。街に火を放ち、モンスターどもを逃がした下衆は貴様らか?」
「……」
「舐めるな!俺たちは魔物を狩るのにそんな真似はしねぇ!」

ユーリの口元がかすかに上がり、笑みを作りだす。
わざと挑発的な言葉を吐けば、クリントは答えないにしてもだれかが答えるだろうと思っていた。
そうしたら案の定。ティソンが望みの言葉をくれる。
そして、その言葉に連動して魔狩りの剣のメンバーが雄叫びをあげる。
これ以上問う必要はない。
ならば、それを行った犯人はどこかにいるはず。
そして、この争いをどこかで見ているはずだ。
ユーリは注意深くあたりを見回す。

……あれか

魔狩りの剣のメンバーの一人。
メンバーになじみ切れず、一人わずかにだが離れたところに立っている。
しかも、先ほどからフレンのほうをちらちらと見ていた。
闘技場の中とあって、出入り口は今フレンのいるところのみ。
彼があの場から退かねば出入り口を通ることはかなわない。

ひとまず、逃げられる心配はねぇな。

ユーリは再度あたりを見回す。
しかし、その人物以外にめぼしい奴は見当たらない。
貴族であるキュモールは現場で自ら先陣たって行動する性質ではない。
今回も自分は安全なところで報告を待っているに違いない。
全く忌々しい。
わかっていても行動できないこの状況がもどかしい。
そんなユーリの心情を察してか、こんな状況下にもかかわらず、ベリウスがくすりと笑った。

「ユーリ、行ってくるがよい」
「ベリウス?」
「これしきの事、わらわとて対処ができる。そなたは、そなたの務めを果たすがよい」
「けど…!」
「のう、クリントよ」

ベリウスは膝をついたままのクリントに視線をやる。

「このままでは、そなたらは復讐のためなら街に火を放つ下郎ということになる。人々にとっては貴様らも魔物も変わらぬ…ということになるぞ?」

魔物と同じと評され、魔狩りの剣の者たちは気色ばむ。
この世で最も魔物を憎む彼らが、それと同じなどと言われては黙ってはいない。
クリントはようやく重たい口を開いた。

「他人の評価など関係ない。だが、そうまで言われて黙っているほど腑抜けではない」

クリントは首筋にあてられた剣先に構わず立ち上がる。
ユーリもその動きに合わせておとなしく剣をひいた。
決して友好とは言えない雰囲気ではあるが、これ以上争うことはないだろう。

ユーリは今度の目標を怪しげな動きをしていた男に定める。
ゆったりと歩き男に近寄っていく。
抜き身の刀を持ったまま近寄ってくるユーリを見て、男はたじろいだ。
逃げようと身を返すが、すでに遅い。
ひたりと剣先が突き付けられる。

「言え」
「ひっ」
「あいつはどこだ?」
「あ………あ……」

仲間がやられていると思ったのか、魔狩りの剣の幾人かがユーリを止めようと動くが、それはクリントによって制された。
そして、改めてみる。そして悟った。
だれもその人間を知らないことに。
新しくギルドに入った人間などいない。たとえいたとしても、この作戦に新人を参加させるわけがない。
ならば、答えは一つ。
奴はまわし者だ。

「さぁ、言え」

ユーリの言葉はどこまでも冷たい。
脅すように刀の切っ先が皮膚を切り裂く。
すると、悲鳴を上げるように男が叫んだ。

「た、た、高台の上!」
「ユーリ!待て!!」

フレンの制止を振り切り、ユーリは駆ける。
ユーリを止めようと伸ばされた手はむなしく空をきった。
走り去る親友の後姿を見て、フレンはぐっとこぶしを握る。

「ユーリ…君は……」

一体何をしようとしているんだ?

親友には伝わらない…伝えられない不安。
彼のことを信じているのに、状況は彼を疑うように仕向けてくる。

「隊長。追いますか?」
「……頼む、ソディア」
「はい」

フレンの代わりにソディアがユーリの後を追う。
フレンはぐっと何かをこらえるように唇をかみしめた。
踏み入れた街の惨状は想像以上のものだった。
いつもは活気にあふれた街が、いまや見る影もなく、逃げ惑う人々であふれている。
しかも、街の中では魔物が街の人々に襲いかかっているところだった。
ユーリは蒼破斬を繰り出しその魔物を打ち倒すと、倒れている少女に駆け寄った。

「大丈夫か?」
「あ…ありがとう」

少女はユーリを見上げるとほっとしたように息をついた。

「どうなってる?」
「わからない…突然…多分ギルドの人だと思うけど…大きな剣とか持ってる人が大勢来て…そのあとにコロシアムのほうから魔物が…」
「…捕まえてあった魔物が逃げたのか。でも妙だな。ベリウスの力と逆結界で抑え込んでたはず…」

たとえ魔導器が壊れても、ベリウスが抑え込むはず。
それができなかったとなると…

「ベリウスに何かあったのか?」

ユーリは険しい顔をしてつぶやく。

いやな予感がする。

ユーリは少女を立たせ、建物の中に逃げるよう指示を出すと、闘技場へと走った。



闘技場につくと、魔物と人が入り混じって戦闘が行われていた。
しかし、それは魔物と人との戦いだけではなく、人と人とが戦っているものもあった。
ユーリは戦士の殿堂と戦っている人間の甲冑に刻まれている紋章を見て目を見張った。

魔狩りの剣

ユーリは大きく舌打ちをし、彼らを昏倒させていく。
殺しはしないが、早々に気付かれても困る。
素早い動きで敵を倒しながら、奥へと走る。
闘技場の中心へたどりつくと、そこに多くの魔狩りの剣のメンバーに囲まれたナッツの姿を発見した。

「ナッツ!!」

ユーリは叫びながら剣を振りかぶった。
そしてそのままの勢いで囲んでいた連中を吹き飛ばす。

「貴様、何者だ!我ら魔狩りの剣の邪魔をするなら、容赦はしない!」

まだ幼い少女がそう叫ぶと、大きな輪刀を構えた。
ユーリはそれを冷たい目で見つめると、冷やかに声を放つ。

「ここは戦士の殿堂の街だ。魔狩りの剣が何の用だかしらねぇが、この街を侵略するのならば徹底的に潰させてもらう」

ユーリの気迫に押され幾人かが後ずさる中、少女は気丈にも言い返した。

「戦士の殿堂は魔物を頭に据えた魔物の手下の集まりだ!魔物を庇い、かくまっている!そのような悪を我々は許しはしない!」

ユーリはなるほどな、と内心納得する。
戦士の殿堂とことを構えるほどの理由。
何のことかと思えば…彼らはここに逃げ込むバウルの姿を見たのだろう。その上、ベリウスのうわさも聞いたにちがいない。
魔狩りの剣は理性のない魔物だけを狩っているだけではなく、始祖の隷長をも狙っていると聞いた。
彼らにとっては魔物が知性・理性を兼ね備えているかなどどうでもいい。
魔物であるがゆえに悪。
そう極端な思考に偏ってしまっているのだ。
たしかに、魔物によって家族を奪われるものは多く、恨む気持ちも理解できる。
だが……

「だからって、街の人間を巻き込んでまでやることじゃねぇ」
「この街に暮らす者も、同罪だ!」

その言葉に、戦意をそがれていたほかの魔狩りの剣の連中も剣を構えなおした。
ユーリはそんな彼らに冷たい笑みを向ける。

「そうかい。じゃ、本気でいかせてもらうぜ」

ユーリが力を解放しようとしたとき…天井にひびが入り、上から大きな体が落ちてきた。

「ベリウス様!」

ナッツが叫ぶ。
しかし、気付いたとしても彼女の巨体を受け止めることなど到底できず、あえなくベリウスの体は床にたたきつけられた。
ベリウスはうめき声をあげながらもすぐに起き上がる。
そして、目の前の人間をきつく睨み据えた。
ユーリはベリウスとともに降ってきた人物を目にすると、すぐさま剣を持って走った。
そして、その人物が落ちた衝撃から立ち直る前に、ひたりと剣を首筋に突き付けた。

「首領!」

少女が叫ぶ。
ユーリは周りの人間の叫びになど耳を貸さず、まっすぐにその男を見下ろした。
魔狩りの剣のトップ・クリント。
さすがに、ギルドのトップメンバーの顔は把握している。

「このおとしまえは、あんたがつけてくれるんだろうな?」

首筋に据えられた刀がクリントの皮膚を裂き、わずかに血がにじむ。
魔狩りの剣のメンバーがにわかに殺気だつが、首領の命が危ういとあってはうかつに動くこともできない。
周りが固唾をのんで見守る中、刀を突き付けられたクリントは少しも焦った様子もない。

「俺を殺すのは構わない。だが、魔狩りの剣はたとえ最後の一人になろうとも、魔物を狩ることをやめはしない。俺がいなくなれば、ティソンが代わりに引き継ぐ。」
「じゃぁ、両方殺すか」
「言っただろ!最後の一人まで戦うことをやめはしねぇ!無駄だぁ!」

ティソンが高らかに叫ぶ。
彼らの言葉を聞いて、ユーリの手に力がこもる。
その時、静かな声がユーリに語りかけた。

「やめるのじゃ、ユーリ。血で血を洗うような行いの先に道は出来ぬ」
「ベリウス…」

決して浅くない傷を負いながらも、彼女は毅然とその場にたっていた。
やめろという言葉に従いたいのは山々だが、魔狩りの剣が対話を受け入れそうにないこの状況下において、剣を引けばベリウスの身を危険にさらすことになる。
身動きできないこの状況下にひとつの風が流れ込んだ。

「双方、剣をおさめよ!」

その声の主を、ユーリは嫌というほど知っている。
そして同時に、タイミングの悪さを呪った。

なんで今来るんだよフレン

げんなりとして振り返ると、隊長服に身を包んだフレンが、扉の前に立っていた。
ノードポリカへと向かう船の上。
もうすぐにそちらにつくというとき…陸地から立ち上る煙が見えた。

風にのって漂ってくる焦げた匂い。
胸がざわめく。

船に乗っていたほかの乗組員たちもそれに気付いたのか、ざわめき始める。

「おい・・・あれって・・・」
「火事・・・か?」
「馬鹿な。あそこは戦士の殿堂の街だ」
「だが・・・」

信じられない思いで、船を走らせる。
だが、徐々に肉眼でも確認できるようになった街。
その惨状は皆の否定したい気持ちを裏切るものだった。
逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえ、魔物の雄叫びすらまじる。
煙の出所は、ノードポリカの象徴ともいえる闘技場からで、その焼け焦げた匂いは近づけば近づくほど濃さを増し、鼻をつきさす。

「どういうことだ・・・?」

自分の育ての親の街、故郷ともいえる街の惨状にユーリは言葉を失う。
それは、船の乗組員らもおなじだったようで、誰もが言葉をなくしてただ立ち尽くすのみ・・・。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
ユーリはこぶしを強く握ると、船の船員に詰め寄った。

「おい!なんとか船をつけられないか!?」
「・・・この状況じゃ・・・」
「じゃあ、このまま見てろって言うのか!?」
「・・・・・・」

ユーリの剣幕に船員たちは気圧され、目をそらす。
その様子はもうすべてをあきらめているように見え、ユーリを苛立たせた。

「なら、小舟でも何でもいい。貸してくれ」
「あんた!一人で行く気か!?」
「あそこには恩人がいる。逃げるわけにはいかねぇんだよ」

ユーリは船員の答えも聞かず、船の横に設置されている救命用のボートに近づく。
そしてテキパキとくくってあるロープを外し始めた。
船員はそれを止めることもできず、仲間と顔を見合わせるばかり。
そこへ、ひと際野太い声がかかった。

「そんな小舟じゃ陸地まで行くのに時間がかかるぜ」

声をかけられたユーリは作業の手は止めないまま、声の主に目をやる。
潮風にあたり、ぼさぼさな髪。
筋骨隆々とした体つきにまとった服は所々が擦り切れて、この男がどれほどこの海ですごしてきたのかを窺わせる。
おそらく船長だろうその男はユーリにニヤリとした笑みを向けた。

「おせぇのなんかわかってる。けど、いかねぇよりはましじゃねぇか?客が乗ってる船をあんなとこにつけられねえっていうあんたらの事情もあるだろうが、俺には俺の事情がある」

挑戦的に睨みつけるユーリ。
だが、船長は気分を害するどころか、さも愉快といわんばかりに豪快に笑った。

「はははっ!!こいつらの陸に上がりたがらねぇ理由をそんな風に解釈してくれるとはありがてぇがな、こいつらは陸でのもめごとにゃ慣れてねぇ。単純にそれが怖くて臆病風に吹かれてんのよ!」

豪快に笑う船長とは反対にあせたのは乗組員たちだ。
船のトップである船長にそんなことを言われて、あせったように口を開く。

「船長!俺たちは別に・・・っ!」

弁解しようと詰め寄ってくる船員たちに、猫の子でも追い払うよう手を振って船長は言葉をつづけた。

「俺たちは海専門だ。海のことじゃだれにも負けねぇ自信はある。だが、陸のことは範疇外だ。お前さんは逆だろう?」
「まぁな」

とりとめのない話に聞こえるが、なんとなく話が見えてきた。
ユーリはロープをほどく手を止めると、不敵に笑う男を見返した。
それを見て、男はさらに笑みを深くする。

「なら一つ協力と行こうじゃねぇか。俺らはあんたを送って、市民を避難させる。海のほうが安全だからな」
「で、俺には陸のごたごたを片づけて来いって?平等性に欠けてねぇか?」

別に条件を拒否するつもりではないが、ただの旅人一人に対する条件にしてはきつすぎやしないかと、ユーリは苦笑して肩をすくめて見せる。
だが、男は当然とばかりに言い放った。

「それくらいで十分だろう。あの方の養い子ならな」

男の言葉に、ユーリは息をのんで目を丸くする。
その表情を見て気を良くしたのか、男は大きく声を張り上げた。

「野郎ども、全速前進だ!住民の救助に向かう!」

船長の指示が出たならば、船に乗る男たちに否やはない。
船はすぐさま、ノードポリカに向かって走り出した。

ポカンとしていたユーリも、男たちが動き出したのを機に我に返る。
こんなときだというのに、笑みがこみ上げてくる。
どこにあっても、ベリウスが自分を支えてくれている。
ユーリはそっと自分の背に手をやると瞳を閉じた。

陸はもう目の前だ。
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