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TOAに関する妄想文だったり、日記だったりを書いていきます。ネタバレ有り。いわゆる"女性向け"の文章表現多々。 出版元・製作元様方には一切関係ありません。 また、突然消失の可能性があります。 嫌いな方は他のところに逃げてくださいね。
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花火が上がる。
それは誰をも魅了する華ではなく、皆に知らしめるための音。
街には装飾が施され、歩く人々も足取り軽く歩いている。
新しく就任した皇帝陛下への祝い。

「ヨーデル皇帝陛下!」
「陛下!」

城のバルコニーより顔を姿を見せたヨーデルに、市民は歓声をあげる。
豪奢な服に身を包み、冠を頭に載せたヨーデルは柔らかな笑みで手を振る。
その背後にはアレクセイ、シュヴァーンが控えていた。
フレンは階下にて警護を行っている。

「陛下。そろそろ…」
「はい」

アレクセイに促されたヨーデルが城の中へと姿を消す。
それでも鳴りやまぬ歓声にシュヴァーンは笑みを刻んだ。






謁見の間。
そこには、ヨーデルにアレクセイと彼が信を置く評議会議長の姿があった。
皇帝がそばに置くには少なすぎる人数。

「フレン・シーフォ隊長を連れて参りました」
「入れ」

何もわからぬままシュヴァーンに連れてこられたフレンは、中にいる面々をみて、行きをのむ。
その緊張を悟ったのか、ヨーデルは柔らかく声をかける。

「大丈夫ですよ、フレン。こちらへ」
「はっ」

ヨーデルと、そしてシュヴァーンに促されて、フレンは前へ進み出る。
そして、幾分ヨーデルから離れたところで膝をついた。

「フレン、隊長就任おめでとうございます」
「ありがとうございます。陛下直々にお言葉を賜り、身に余る光栄でございます」
「これは、僕からの就任祝いです。でお、本当はいけないことですから…他言無用ですよ?」

ヨーデルは悪戯っぽくほほ笑むと、後ろを指し示した。
その先を視線で追う。
そこには、黒い人影があった。

不審者かと思い一瞬身構えるが、アレクセイやシュヴァーンが何の構えも取っていないのをみて、警戒を緩める。
いつ入ってきたのかは全く分からなかったが、彼は招かれたものであるらしい。

その人物がまとうのは黒。
紫や金の細帯が黒に映えて、美しい色合いを呈していた。
しかし、その人物が何者であるのかをうかがい知ることはできない。
頭には薄衣がかぶせられ、かすかにのぞく顔は狐の面で隠されていた。

誰も言葉を発っしない。
静寂の空間。

その人物は静かに歩みだした。
しなやかな足さばき。
余計な音は一切たてず、静かに歩み出る。
そして、フレンよりも離れた位置でその歩みは止まった。

皆が注目する中、すらりと腰に下げられていた刃が抜かれる。
細身の片刃の剣はきらりと光りを反射した。
皇帝の御前で刀を抜くなどあってはならない行為。
だがそれをとがめるよりも早く、刃が舞った。

黒の衣が空気をはらみ、ふわりと広がる。
手を彩る細い腕輪がしゃらりと音を立てる。
飛ぶように軽い足運び。
それを見て、ようやく彼が剣舞を舞っているのだと気づく。
楽も何もない空間。
聞こえるのは彼が奏でる軽やかな足音と衣擦れの音だけであるのに、気付けば彼の舞いに引き込まれていた。


ふわりと宙に舞った体がとん、と音を立てて床に降り立つ。
そこではっと我に返った。
どれほど時間がたったのだろう…それすらも分からない。
呆けた頭を元に戻そうと一旦瞳を閉じる。

そして再び目を開けた時、刀の切っ先が自分に向けられていた。
正確には、自分の背後にいるヨーデル殿下に。
驚きに目を見開くと、すっと剣先はそれ、騎士団長に、評議会議長に、騎士団隊長主席に、そして、最後は彼自身の首筋に。
そうして、刀は収められた。

誰も何も語らない。
自分以外の誰もが真実を知っている様子であるが、今それを問うことはできなかった。

黒い衣をまとった人物は、目の前のフレンには目もくれず、懐から何かを取り出した。
真っ白な紙に包まれたそれを、投げると、ひらりとそれが床に舞った。
床に落ちたそれは、赤く染まった羽根。
近くにいたフレンには、それが何であるか分かった。

血だ。

真っ白であったであろう羽根は、何かの血で赤黒く染まっていた。

「確認しました」

ヨーデルが頷く。
それをみて、彼は身をひるがえした。
もう用は済んだとばかりに後ろを振り返ることなく部屋を出ていく。

彼の背が離れていくのを見送っていると、背後でヨーデルが話し始めた。

「昔、始祖の隷長と呼ばれる種属と人間との間で戦争がありました。人は魔導器を用いて彼らと戦おうと奮闘しましたが、魔導器は最悪の災厄を呼びこんでしまいました。星すらをも飲み込もうとする災厄…星喰みを打ち倒すべく、始祖の隷長と人とは力を合わせ、戦いました。そして、星喰みを退けた。」

おとぎ話のような話。
ヨーデルが反応を求めているわけではないとわかったため、フレンは何も言わずにその話に耳を傾けた。

「星喰みを退けはしたものの、元凶となった魔導器をそのままにはしておけない。当時の人の指導者はそれを管理するために国を作った。そして、始祖の隷長は魔導器を管理する人を監視するために、代理人を見出した。それが暗行御史。彼は始祖の隷長の後見を受け、道を外れた人を処断する。けれど、その役目ゆえに誰かに知られてはならない。これはこの帝国の創立時よりきめられた闇の部分。本来ならば、帝国を担う者のみに知らされる事実。……僕がこれを話した意味、フレンになら分かりますね」

ヨーデルが話し終えた瞬間、フレンは弾かれたように走り出した。
もう見えなくなってしまった黒い影を必死に追っていく。

「これでよかったのですか?」
「ええ。彼らならうまくいくでしょう。暗行御史は帝国の影。ですが、孤独である必要はないのですから」

ヨーデルは笑う。
アレクセイは一つため息をつくと、若い彼らが消えた方向を眺めた。








「待ってくれ!!」

息を切らせながら走ってきた人物に構わず、歩いていこうとする影。
フレンはその手をつかみ、無理やりに引きとめた。

「………」

彼は何も答えない。
それが正体を隠すためだとは分かっていた。
だからこそ、あえて問いただしはしない。
自分の気持ちを伝えるだけ。

「たとえ歩む道が違っても、背負うものが違っても…正しいものが正しく生きることができる世界を作る」
「……っ……」

彼が息をのむ気配が伝わる。

「それだけは、変わらないよ」

まっすぐに彼を見つめる。
顔には笑み。
迷いなんて一つも見えない、曇りない笑顔。

彼は何も言わなかったけれど、まっすぐに拳が差し出された。
誘われるように拳を差し出すと、それがぶつけられる。
昔からよくした、二人の間の合図。
それだけで十分だった。

フレンは離れていく彼を引きとめることはせず、見送る。
胸に温かいものを抱えて…。











「よくもまぁ、いろいろとやってくれたな」

アレクセイが自身の執務室に戻ると、唐突に声が投げかけられた。
それに驚きもせず、答える。

「主人の留守中に入り込むとは感心しないな。それに、シーフォのことは陛下がしたことだ。私に言わないでくれたまえ」
「そっちじゃねぇよ」
「では、なんのことかな?」
「とぼけんなよ、タヌキ」

ばさり、と音をたてて何かが投げつけられる。
床に散らばったそれらに目を落とすと、投げつけられたのが数通の手紙であることが分かった。
封筒に刻まれていたのはキュモールの紋。
宛名は……

「影の取引に正式な紋を使うなど、愚かしいにも程があるな」
「弁解はしねぇのな」

さすがに封筒に宛名は書かれていなかったが、中身を見ればわかる。
この手紙は海凶の爪にキュモールからあてられたものであった。
それだけなら、ユーリがわざわざアレクセイのもとを訪れた理由にはならないが…

「自分の部下使って魔導器横流しして、それ使って悪だくみしたところを刈り取る。帝国の中の腐った部分をあぶりだして一斉に切り捨てるのに都合が良かったってか?」

海凶の爪のイエガーはアレクセイの部下であった。
今はギルドとして独立しているため、元…をつけたほうがいいのかもわからないが、現実、今現在もアレクセイの命令を遂行しているところをみると、現在遂行形なのだろう。
ユーリの厳しい視線を受けても、アレクセイはひるむ様子はない。
むしろ、満足げに笑った。

「ついでに、帝位継承のごたごたも片付いた。いいことばかりだろう?」

悪びれた様子のないアレクセイに、ユーリは剣を向ける。

「この剣に例外はない。知ってるだろ?」

剣舞の最後に見せた仕草。
あれは、皇帝であれ誰であれ、道にそむけば剣を向ける。自分すらも例外ではない…という意味の誓い。
だが、今回は……

「……ま、あんたはまだこっちに踏み込んでない。ぎりぎりな」
「ふっ……そちらに踏み込まないよう注意するとしよう」
「よく言うぜ。ぎりぎりなの分かってやってるくせに」

嫌そうに顔をゆがめながら剣を引く。
アレクセイは相変わらずの余裕の表情を崩さぬまま。
その顔を見て、眉間のしわを濃くしながらもユーリは窓枠に足をかける。

「あんた、当分顔見せんな」
「随分ないいようだな。…まぁ、君の機嫌を損ねるのは私の望むところではない」
「とかいって、おっさん送りつけてくんなよ。うるせぇから」
「ひどっ!!」

いつからいたのか…おそらく最初からだろうが、うるさいから来るなと言われたシュヴァーンはわざとらしくさめざめと泣いたふりをしている。
それをみることすらせず、ユーリはひらりと身を躍らせた。
黒の衣はすぐに闇に溶けて見えなくなる。

それを見送って、アレクセイは物思いにふける。
ひとまずは平和を手に入れた国を安定させるために、これから忙しくなるだろう。
また彼の手が必要な時が来るかもしれないが、今はひと時の安寧を。







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「ユーリ・ローウェルの追跡をやめろとは一体どういうことでしょうか」

すっかり落ち込んでしまったエステルを送り届けるために帝都へと帰還後、フレンはアレクセイに呼び出された。
そして、単刀直入に言い渡された。
ユーリの捜索はやめるように、と。
容疑者の捕縛は騎士団の職務。
本来ならば、それを遂行している隊長をわざわざ騎士団長が呼び出して制止するなんてことあるはずはない。
フレンはいぶかしげに眉をひそめた。

「恐れながら、彼にはキュモール隊長の殺害容疑がかかっています。そのような人物を野放しにしておくのは…」

内心、苦い思いを抱えながらアレクセイに進言する。
ユーリを罪人のように言うことはフレンにとって不本意ではあったが、隊長という立場の自分がユーリを捜索するには、理由があったほうが行動しやすい。
しかし、フレンの思いをよそにアレクセイは淡々と告げる。

「これは決定事項だよ」
「………理由をお伺いしても?」

騎士団のうちにいる以上、上司からの命令は絶対。
しかし、到底納得できる命令ではなかったため、フレンはアレクセイに問うた。
本来ならば質問など許されるものではないのだが、アレクセイは気分を害した様子もなく答えた。

「まぁ、君には知る権利があるだろう。しかし、これは他言無用だ」
「……」

フレンが無言でうなづくのを見ると、アレクセイはゆったりと手を組んで話し始めた。

「アレクサンダー・フォン・キュモール…いや、正確にはもうフォンは必要ないな。奴はすでに騎士団のものではない。奴はラゴウと手を組み、国家の転覆を謀った国家反逆者だ。そして、残念なことに彼らに手を貸した者たちは多くてね。下手をすれば国家の根底を揺るがしきれない大事件となる」
「……隠蔽…ですか」

フレンが苦々しい思いでつぶやくと、アレクセイは困ったように笑った。

「もっとも、いくつかはすでに明るみになってしまっている。今更すべてを覆い隠すとかえって不自然になるため、最低限のことは公表される。キュモールは帝国で管理を行われているはずの魔導器を横流しした罪で貴族の身分を剥奪。彼はそれに耐えきれず、自害した……。君は自害した人間を殺害した犯人などいると思うかな?」
「…いいえ」

アレクセイから与えられる無言の圧力。
それを前にして、フレンは頷くしかなかった。





顔をこわばらせたフレンが退室すると、アレクセイはふぅと息を吐いた。

「全く。良くも悪くもまっすぐだな、彼は」
「あんたも、昔はそうだったでしょうよ。騎士の鏡なんて言われちゃってるくせに」

カーテンの向こうに隠れていたシュヴァーンがあきれたようにつぶやく。

「目的を達するために、よりよい手段を選ぶようになったまでだ。それに、騎士道に反したことは行っていない。私が騎士の鏡と讃えられても、それは間違いではないだろう」

悪びれた様子もなく、しれっと言うアレクセイに、シュヴァーンは呆れの色を濃くする。
確かに、間違ってはいないのだが……

「青年にばれたら、怖いわよ」
「彼は自分の役目を心得ている。自分の領域に踏み込んではいない者にまで牙を伸ばすような獣ではないよ、暗行御史殿は」

自信たっぷりな様子のアレクセイに、シュヴァーンはそれ以上言う言葉を持たず……重くため息を漏らす。
疲れた様子のシュヴァーンには構わず、アレクセイは次なる算段をたてる。

「さて、これでひと段落はついた。後は、ヨーデル殿下を皇帝として評議会に認めさせるだけ…だな」
「簡単にいきますかねぇ…多少弱体化したとはいえ、相手はあの評議会ですよ?金と権力という甘い汁が好きな腐った虫どもだ」
「だが、その虫どもが擁立したエステリーゼ様は自分を評議会が利用しようとしていたことを知り、帝位継承権を放棄なされた。帝位継承権を持つものがヨーデル殿下しかいなくなった今、評議会を認めざるを得まい」
「……わざと姫様にその情報知らせて、そうなるように仕組んだのはどこの誰よ」
「実行犯に言われたくはないな」

しばし、お互い無言。
結局は同じことをやってきているため、同罪なのだ。

「これから忙しくなるぞ」

愉快そうに笑うアレクセイ。
自分がこき使われる予感を感じ取って、シュヴァーンは長々とため息をついた。

ユーリとソディアが走り去った後。
その場は落ち着きはしたものの、剣呑な雰囲気はぬぐい去れないままであった。
戦士の殿堂の首領が始祖の隷長であるのは事実。
そして、魔狩りの剣のメンバーが始祖の隷長を忌み嫌っているのも事実。
このまま引くことも、再び戦うこともできず、両者はにらみ合っていた。

「この、大馬鹿どもらが!!」

野太い声が空気を大きく震わす。
魔狩りの剣メンバーが身をすくめるのとは反対に、ベリウスは笑みを浮かべた。
大声で怒鳴りつけた人物は、その体つきからは想像できないくらい身軽に客席から飛び降りた。
その人物をみて、フレンの後ろにいたカロルは思わず声を上げる。

「ドン!」
「おいてめえら、誰の許可得てこんなことしてやがる!ギルド同士の抗争はご法度だ!てめぇらの軽い頭はんなことも忘れたか!?」

ギルドの束ね役であるドン・ホワイトホースに怒鳴りつけられ、下っ端の者らは返す言葉を持たず、ただ縮こまるばかり。
ベリウスはついに耐えきれない、とばかりに笑い声を洩らした。

「久しいな。息災そうでなにより」
「なんだ、じじいになったとでも言いたいか?」
「そんなことは言っておらぬではないか。あの時はまだまだ半端者であったのに、貫禄が出たなと思うただけよ」
「てめぇと一緒にするな」

まるで昔からの知己のように話す二人。
しかも、ベリウスのほうがドンを子供のように扱っている。
そのことに周りは目を丸くした。
周囲の様子に気がついたのか、ドンは舌打ちをするとクリントに向き直った。

「おい、今回の発端はてめぇか」
「………」

クリントは否定も肯定もせず、無言でドンを見返した。

「ベリウスのくだらねぇ情報、いったいどっから仕入れやがった」
「……依頼だ」
「依頼か。ギルドの依頼だ、依頼主を明かせとはいわねぇ。だが、同じギルドに喧嘩売るような真似したのはなぜだ。ベリウスが始祖の隷長だってのを知って、歯止めがきかなくなったか」
「………」

クリントは返答を返さない。
ドンはなさけねぇ、とつぶやき深々と息を吐いた。
クリントを筆頭とした魔狩りの剣の連中がこんなことをした背景には、他人には言えない理由があるだろう。
だが、それは罪を許される免罪符にはならない。

「いいか。この街の人間にとってはな、てめぇらは魔物と同じだ。てめぇらは復讐心に目がくらんで、自分がされたことをそのまんま返してるだけだ。わかってんのか!」
「もうよい。この者たちとて分かっているだろう」

怒鳴りつけるドンをベリウスがやんわりと止めた。

「ヒトは間違えるものよ。あの時もそうじゃった。だが、間違いを正せるのもまたヒト。お主とて、多くを失っただろう?ドン・ホワイトホース」

母が息子をたしなめるように言われ、ドンは深々とため息をついた。
もう、怒鳴りつける気は失せている。
気を殺がれたのは魔狩りの剣の連中も同じであったようだ。
クリントはおもむろに立ち上がると、武器を持って外へと出ていく。

「償いはする」

振り向くことなくそれだけ告げ、彼らは闘技場を後にした。

その後、闘技場から逃げだした魔物を討伐し、市街の復興を行う戦士の殿堂と魔狩りの剣の人間らの姿がノードポリカでみられたという。



 


「ユーリ・ローウェルの追跡をやめろとは一体どういうことでしょうか」

すっかり落ち込んでしまったエステルを送り届けるために帝都へと帰還後、フレンはアレクセイに呼び出された。
そして、単刀直入に言い渡された。
ユーリの捜索はやめるように、と。
容疑者の捕縛は騎士団の職務。
本来ならば、それを遂行している隊長をわざわざ騎士団長が呼び出して制止するなんてことあるはずはない。
フレンはいぶかしげに眉をひそめた。

「恐れながら、彼にはキュモール隊長の殺害容疑がかかっています。そのような人物を野放しにしておくのは…」

内心、苦い思いを抱えながらアレクセイに進言する。
ユーリを罪人のように言うことはフレンにとって不本意ではあったが、隊長という立場の自分がユーリを捜索するには、理由があったほうが行動しやすい。
しかし、フレンの思いをよそにアレクセイは淡々と告げる。

「これは決定事項だよ」
「………理由をお伺いしても?」

騎士団のうちにいる以上、上司からの命令は絶対。
しかし、到底納得できる命令ではなかったため、フレンはアレクセイに問うた。
本来ならば質問など許されるものではないのだが、アレクセイは気分を害した様子もなく答えた。

「まぁ、君には知る権利があるだろう。しかし、これは他言無用だ」
「……」

フレンが無言でうなづくのを見ると、アレクセイはゆったりと手を組んで話し始めた。

「アレクサンダー・フォン・キュモール…いや、正確にはもうフォンは必要ないな。奴はすでに騎士団のものではない。奴はラゴウと手を組み、国家の転覆を謀った国家反逆者だ。そして、残念なことに彼らに手を貸した者たちは多くてね。下手をすれば国家の根底を揺るがしきれない大事件となる」
「……隠蔽…ですか」

フレンが苦々しい思いでつぶやくと、アレクセイは困ったように笑った。

「もっとも、いくつかはすでに明るみになってしまっている。今更すべてを覆い隠すとかえって不自然になる。最低限のことは公表される。キュモールは帝国で管理を行われているはずの魔導器を横流しした罪で貴族の身分を剥奪。彼はそれに耐えきれず、自害した。君は自害した人間を殺害した犯人などいると思うかな?」
「…いいえ」

アレクセイから与えられる無言の圧力。
それを前にして、フレンはうなづくしかなかった。
流血描写が含まれますので、苦手な方は注意を。





ユーリは静かに平野を駆けた。
幸いにも騒ぎの間に日は暮れ、身を隠すのにはもってこいの時間帯。
ユーリは夕闇に紛れるように走った。

日が暮れた後では目的の人物も探しにくくなるものではあるが、キュモール相手ではそれは当てはまらない。
ご丁寧に大きな馬車の周りに火を焚き、警備の騎士が周りを固めている。

「まったく、隠れて行動する気がないのか、こいつらは」

思わず口からため息がもれる。
どの貴族もそうだ。
自分が我慢するというのは拒否するくせに、周りのミスには厳しい。
奴は警備の中でぬくぬくと報告を待っているのだろう。
ユーリは気力が萎えそうになる自分に喝をいれて、剣を握った。





「がっ」
「貴様、何者……うあぁ!」
「こいつっ」

「なんだい?騒がしいね」

うとうととしていたキュモールは目をこすりながら体を起こした。
どうやら、警備の騎士が何者かと争っているらしい。
詳しい状況までは分からないが、何者かが集団で襲ってきた様子もないし、武器同士が切り結ぶ音などしないから、相手は魔物か何かなのだろうと見当をつける。
それに、何かあれば真っ先に報告が来るはず。
それが来ないとなると、どうせ大したことはないのだろう。
魔物ごときの襲撃を受けたくらいで自分を起こすなとも命じてある。
キュモールはすぐに静かになった外を確かめることもせず、再び布団を引き寄せる。
しかし、それをかぶって横になることはかなわなかった。
何かが馬車の上にトン、と乗るような音がした直後。まるで自分の位置がわかってるかのように上からまっすぐに剣が突き刺された。

「ひっ…ひぃいいい!」

剣先はキュモールの頬をかすめて止まる。
キュモールは自分の頬に温かな滴が伝うのを感じると、馬車の扉を開け、外に転がり出た。
すぐに警備の騎士を怒鳴りつけようとしたが、その目に映ったのは一人残らず倒された騎士たちの姿。

「なっ……なっ!」

驚きのあまり言葉にならない声を発するキュモールの背後で足音が聞こえる。
キュモールは勢いよく背後を振り返った。
目に入った人物はキュモール自身も知る人物。

「貴様、ユーリ・ローウェル!」

ユーリの顔を見た瞬間、キュモールはおびえから憎しみへその表情を変えた。
ユーリは一切の感情を窺わせぬ冷えた表情で、キュモールを見返した。

「貴様みたいな下賤なものが、貴族である僕に向かって何を…!」
「黙れよ」

金切声でまくしたてるキュモールに辟易したユーリはそれをやめさせるために左手に持つ刃を、キュモールの鼻先に突きつけた。

「ひっ…こんなことして、どうなるかわかって…」
「別にどうもならないさ。お前一人消えたところで…何も変わらない」

ユーリは自嘲気味に笑う。
しかし、剣先はわずかにもぶれることなく、それがキュモールの恐怖をあおった。
服が泥にまみれるのも構わず、キュモールは尻もちをついたまま後ずさる。
ユーリはあえてそれを追わなかった。
わずかずつではあるが、二人の間に距離が開く。
しかし、それでは逃げることはできないとキュモールにも分かっていた。
しかし、そうせずには居られなかった。
やがて、後ずさるキュモールの背が木にあたる。
ユーリはおびえるキュモールに一歩一歩歩み寄った。

「何も変わりはしねぇが、少しの間でも生きやすい世の中にはなるだろ」
「ひっ…た、たすけ……」

雲に隠された月が顔をのぞかせ、あたりがうっすら明るくなる。
その時、キュモールは見た。
ユーリの剣に刻まれた紋様を。

「あ、あ、暗行……」

しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。



「ユーリ・ローウェル……貴様……っ!」

ユーリはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、こちらを睨みつけるソディアの姿があった。
こと切れたキュモールと血に濡れた刀。
瞬間を見ていなくとも、一目瞭然。
ソディアは怒りにまかせ、ユーリに叫んだ。

「貴様、隊長の友人でありながら、人殺しを……!」
「そんなこと、何の関係もねぇよ」

敬愛する隊長をそんなこと扱いされ、貶められたとおもったか、ソディアの目つきが厳しさを増す。
彼女はためらいなく剣を抜いた。

「貴様のようなものは、隊長のためにならない!」
「なら、激情にまかせて己の職務を忘れるような副官はためになるのか?」
「黙れ!」

ソディアは感情に流されるまま剣を振るう。
しかし、そのような剣ではユーリをとらえることはできない。
無駄のない動きでユーリは剣を避ける。

「貴様のような奴はぁ!!」
「…うるせぇよ!」

まっすぐにユーリに向かって振り下ろされた剣。
ユーリはそれめがけて自らの剣を振るった。
硬質な音が響き、ソディアの剣が弾き飛ばされる。
剣は回転しながら弧を描き、地面に突き刺さった。
呆然とするソディアを一瞥すると、ユーリは剣をおさめた。

「半端な覚悟しかねぇ奴に命やるわけにはいかねぇんだよ」

ソディアはぐっと唇をかんだ。
言い返したいことは山ほどある。けれど、言葉が出てこなかった。
ユーリはそんなソディアを見ぬまま、その場を後にした。





ユーリ・ローウェルがキュモールを殺して逃走
その知らせは、その日のうちにフレンに届けられた。
初めは信じなかったフレンだったが、キュモールの体に残された迷いない太刀筋と、当時警備をしていた騎士たちの証言から、それを真実と認めざるを得なかった。
フレンはユーリの消息を追ったが、その行方をつかむことはできなかった…。
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